好きだからこそ
□2.さりげなく
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「ただいまー」
「おぅ、おかえり。病院どーだった?」
私の居場所でもある万事屋に帰るとパチンコに行っていたはずの銀さんが帰ってきていた。
「あれ、パチンコは?」
荷物を下ろしながらソファの上でジャンプを読んでいる銀さんに問いかける。
「だって、大事な大事ななまえちゃんが体調悪いから病院行くね、とか言われちゃったら続けられないでしょうよ」
「大げさだなぁ」
私は銀さんに買ってきたいちご牛乳とプリンをテーブルに置く。
「食べていいよ」
「まじでか!」
「本当は独り占めしたかったんだけど、銀さん嬉しいこと言ってくれたからね」
私は銀さんがプリンを幸せそうに頬張り始めたのを横目に、幸福感に包まれながらさっきの雑誌をぺらりと開く。
あ、今度ホテルでデザートビュッフェあるんだ⋯⋯。銀さんと行こう。
読み進めると、子供抱いて幸せそうに並ぶ夫婦の姿。
やっぱり子供は可愛いなぁ。
「⋯⋯やっぱり、なまえも子供欲しかったりする?」
「えっ⋯⋯?」
いきなり銀さんが顔を近づけてくるものだから驚いて声を上げてしまった。
「いや、子供可愛いなぁと思っただけ」
「なまえは子供大好きだもんなぁ」
「じゃあ、銀さんはどうなの?」
私はついに“その言葉”を口にしてしまった。
結果は分かり切っているけれど、砂粒ほどの希望に賭けてみたかった。
「んー。俺ァ、あんまり子供好きじゃねェからなァ⋯⋯」
ほら、やっぱり。
「それにまだ⋯⋯」
銀さんが何かを言いかけた時に万事屋の黒電話が鳴り響く。
「んだよ、ったく」
銀さんは迷いなく受話器をとる。
「はい、万事屋銀ちゃんです」
今思えばその電話が私たちの運命を捻じ曲げてしまったのかも知れない。
いや、最初から妊娠したことを伝えていれば何か変わったのかも知れない⋯⋯。
私たちの運命は少しずつだけど、確実に捻じ曲がりはじめていた。
to be continued...