短編

□浴衣
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私の彼は東城会六代目会長、堂島大吾。


数多くの部下を束ねる彼の苦労は計り知れない。
いつも難しそうな顔をして、東城会の将来を見据えている。


でもそんな彼も家に帰ってくると……



「薫……疲れた。」

帰宅してすぐジャケットを脱ぎソファーに投げネクタイを緩めながら私に近付いてその逞しい腕で私を抱き締める。
そして弱った声で猫が甘えるように顔を摺り寄せてくる。


大吾さんのお髭がチクチクしてちょっと痛いけど少し弱った大吾さんを見られるのは彼女の特権かな??


「うふふ。大吾さん今日もお疲れ様でした。今日の夕飯はちょっと暑いので冷やし中華にしてみました。具もちょうど作り終わったところなので座って待っててください。」


スンスンと私のうなじに鼻を埋め匂いを嗅ぐ大吾さんの頭を撫でて先にリビングで待ってもらうようにお願いをした。



「お待たせしました〜。」


作り終わった冷やし中華とグラスに氷と麦茶を注いでリビングで待つ大吾さんの元に行った。

「いつもありがとうな薫、お前の作ってくれる飯を食べるだけで疲れが吹き飛ぶよ。」

ソファーに投げられたジャケットはネクタイと一緒にきちんと掛けられていた。
大吾さんの柔らかい笑顔と私にかけてくれる労いの言葉に私の疲れも吹き飛んでいく。


「いえいえ、楽しみにしてくれているのに簡単なもので申し訳ないです。」

「何言ってるんだ、薫の作ってくれる飯ならなんだって美味いよ。」


いただきます、と両手を合わせて他愛のない会話をしながら食事をしていると急に思い出したように大吾さんが口を開いた。


「そうだ薫、今度の土曜日空いてるか?今度本部で祭りをやるんだが来るか?」

「予定は無いですけど……浴衣を持ってないんですよ……。」


大吾さんからの折角のお誘いだけど浴衣を着たのは子供の時以来。会長の女となるとやっぱりその場に相応しい格好をしないと恥をかかせてしまうと思い眉を下げる私に大吾さんはフッと笑い、


「それなら明日浴衣買いに行こう。お前に似合う奴を選んでやる。」

なんて言うから大吾さんが選んでくれる浴衣と大吾さんの浴衣を楽しみにしてます、と笑顔を向けて残りの冷やし中華を食べ進めたのだった。


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