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□雌蜘蛛
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部屋のフローリングに大きめな蜘蛛を見付けたのは深夜二時頃であったか。喉が乾きキッチンへ向かい部屋の電気を着けるとソイツが居た。対して驚きはしないが何処から入ってきたのだろうとゆっくり歩み寄った。蜘蛛は枯葉の様な色をしており、今まで見てきた蜘蛛よりも少々ふっくらしていた。近付いても動く気配は無く、寝ぼけ混じりのぼんやりする頭で蜘蛛と見つめあっていた。
近場に有る椅子に座り様子を見れば蜘蛛は足元へちょこちょこと近寄りまたこちらを見ていた。何だか其の様が愛らしく思え爪先でつついてみる。それに応える様に蜘蛛も爪先を柔い脚で撫ぜる。まるでペットでも飼っているかの様だ。特段虫が好きと云う訳でも無いがこの蜘蛛は愛らしく前世で夫婦だったのでは、と思える程に愛おしく感じた。愛しい妻を爪先で弄る。ふにっとした感触。こそばゆい脚。そしてこちらを見詰める目。愛らしい。もっと触れたい。もっと、もっと妻を感じたい。もっと強く。もっと激しく。霞んだ脳からの伝令を足が受け取り愛おしい妻の腹をゆっくりゆっくりと、力を入れていく。殺してしまわぬ様に、慈しむ様にゆっくりと。それでも妻は逃げず多少脚をばたつかせるだけであった。苦しいかい?問うても言葉は帰ってこない。その間も力は込められ続け、プッと軽い音と共に小さく黒い点が四方へ散っていく。足にも黒が登り、増え続け、覆われ、爪先には生暖かい感触が有った。黒の隙間から見えたのはだらりと投げ出した四肢、裂かれ溢れる臓器。愛しい妻の顔。黒に覆われながら思い出す。喉が渇いてたんだ。
目を覚ましキッチンへと向かう。変な夢を見たな、と水を飲みながら部屋を見回す。フローリングには腹が裂かれた妻の死体が有る。臓物と舌は四肢と同じくだらしなく地へ吐き出されており臭いもキツくなってきた。蜘蛛の子なら簡単に始末出来るのにな、と食器乾燥機へ入れ今尚乾燥させている息子を見る。
「ま、流石に何百匹も来られちゃ乾燥機足んないけどな。」
からからと笑い飲みかけの水を捨て寝室へ戻った。

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