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□隣の人
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攫生は人を殺した。二年前、二〇一五年の七月攫生が二一歳を迎えた頃、蝉が煩く鳴く昼下がりであった。攫生は宗教勧誘に来た女を自宅へ招き入れ、睡眠薬を入れた麦茶を飲ませた。女は喉が乾いていたのだろう麦茶を飲み干し話をしているうちに眠りに落ちた。攫生は眠った女を風呂場へ移動させ近隣の民家から盗んでいた包丁で刺し殺した。何故殺したのか。理由は簡単である。人を殺してみたかったと云う好奇心と何処まで己が逃げ切れるのか知りたかったから。攫生は前々から準備をし、人を殺す機会が巡ってくるのをずっと待っていた。そして実行した。しかし、人を殺すと云う行為は思っていた様な物と違い、大した高揚感も罪悪感も感じられなかった。こんなものか、と攫生は女の手足の指を第一関節から金切鋸で切断した。ペンチで歯を抜き服も脱がせる。中々の力仕事に飽き性の攫生はうんざりしていた。このままバレても良いかとも思えたがどうせなら最後までやるか、と切った指から骨を抜き骨と歯は黒いビニール袋へ肉は隣の家で飼われている犬へ与えた。深夜まで女を風呂場へ放置し午前一時を過ぎた頃、女を車へ乗せ少し離れて公園へ運んだ。田舎なので人は居らず多少物音を立てても虫の音がかき消してくれた。女を公園の中央へ置き顔を中心に酒を掛け火を着けた。キュウキュウと何かが縮む様な音と異臭が漂ってくる。攫生は犯行に使った包丁を女が発する炎へ投げ入れ臭いが付かぬ様早々に立ち去りコンビニで新たな酒を買い帰宅した。翌朝、全国区のニュースで取り上げられていた。立ち去った後、直ぐに近隣の住民が発見し火事として通報したらしい。発見が早かったからか女も包丁も殆ど形を保ったままであり殺人事件として調査をする、とアナウンサーが真面目な顔をして伝える。そうして公園の映像からゴマアザラシの映像に切り替わる。攫生はさほど動揺せず午前中に近所のスーパーで魚を三尾程買い風呂場でぐちゃぐちゃに切り刻んだそうして女の血液と共に流し、簡単に掃除をする。午後はある程度の荷物を纏め新たな住居を探し始めた。結局、買った酒は呑まなかった。事件から一週間と三日後、攫生は隣町の寂れたアパートへ女の歯や骨が入った袋を持ち引っ越した。
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