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□雪
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最後に観た彼の人の微笑みは雪の様に人肌で溶けてしまう程柔く儚かった。
幻を視た。深々と庭に降り積もる真白な雪の中に彼の人が立っていた。彼の人は雪にも負けぬ色を持ち此方をジッと観ていた。顔は彼の人なのに、最後に観た柔い雪の様な微笑みとは云と掛け離れた眼をしていた。まるで総てを凍てつかせる氷の様な眼で私を見据えている。
私は、素足のまま庭へ降り歩み寄る。雪が足に滲み、骨を凍らせていく。それでも、彼の人の眼よりは温く優しかった。歩を進める度に彼の人は輪郭を喪って行く。近づけば近づく程彼の人は遠く成って行く。そして、私が彼の人の立っていた場へ着く頃には、小さな雪の山だけが残っていた。私は其を只、じっと見つめていた。雪片が背に積もって行くのが解る。彼の人は私を怨んでいるのだろうか。埋もれたあの人を、見棄てた私を怨んでいるのだろうか。この山を掘れば許されるのだろうか。

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