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□祝子の夏
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『祝子の夏』

1997年の夏、昭元祝子は死んだ。
祝子は、高校生最後の夏休みを自分の為に費やした。自分が死んだ時の為に準備をしていたのだ。
祝子の家は特に裕福だと云う訳でも、ましてやヤクザの家系等でもない。平凡な、何処にでも有る普通の家庭であり、祝子は何不自由なく暮らしてきた。何故、祝子が己の死期を悟ったのか。それは、来世の因縁なのである。
前世が過去とは限らない。来世が未来とは限らない。祝子の前世は男の体育教師だった。家族を火事で無くし、その数年後自ら命を絶った。そして、彼が生きた時期は私にとっては未来の出来事である。彼にとっては来世が過去なのだ。彼は火事によって気が狂ってしまった。金魚を三匹殺した。飼っていた猫を生き埋めにした。同僚を屋上から突き落とした。そして、男子生徒をバラバラにした。
祝子は一番酷かったバラバラにされた男子生徒に復讐されるのだと思った。きっと、男子生徒が同じ時代に、私と同じく前世の記憶を持ったまま生きているのだろう、と。
正直な所、祝子は腑に落ちなかった。前世とは言えども全く関係無い人間への復讐の為にうら若き命を黙って差し出す程祝子はお人好しでは無い。
抵抗はするつもりでいるが、相手が中学生でも生き残れる自信は無かった。
そこで、祝子は死んだ後に抵抗をする事にした。
バラバラにされる事は解っている。ならば、早期発見、早期逮捕である。
バラバラにされ身元不明にされても祝子であると解る様な証明が必要だった。
そこで祝子は高校生最後の夏休みを使って全身に小さなタトゥーを入れる事にした。
元々、ゴスロリやパンク系を好む祝子であった為、親はあっさりと了承した。進路や就職に響く心配は無かった。卒業後、祝子は母親の手伝いの為、海外を飛び回るのだ。
しかし、そんな将来も訪れないのであろう。そう考えると、祝子の心に怒りが込み上げてきた。返り討ちにしてやろうか、常に警察を側に付けて過ごしてやろうか、そんな考えを持ち始める様になった。
夏休みに入り、祝子はまず両肩に小さな天使の羽を入れた。次に両二の腕の裏に五芒星、両肘の下には十字架、掌には小さくイニシャルを入れた。それと同等に胸の下、臍付近、内太腿、足首、足の指、とタトゥーを増やして行った。
だが、流石に顔には入れられず唇に二つ、小さな金のリング状のピアスを付けた。
傍から見ればバンドマンの追っかけをしている様な、奇抜な少女である。だが、祝子は追いかけられる側なのだ。そして、返り討ちを狙っている殺意に揺れる少女なのである。
爪は剥がれるだろうが、一応目立つネイルを施した。この姿には流石の母も唖然とするしかなかった。
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