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□未練
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茹だる様な暑さと相対する冷えた貴方。
閉ざされた窓から入道雲が見える。
この部屋は寒い。
まるで、世界から切り離された様に寒く、哀しい。
正方形の部屋の真ん中に貴方が居り、其れを魔法陣の様にドライアイスが囲んでいる。
季節は夏。腐るのも早いと業者がたんまりと置いていったドライアイス。薄煙を吐きながら底を這う様に部屋を冷やしていく。
「この部屋は、寒いねエ。」
返事など返ってこない事位解っている。頭がやられた訳では無い。只、この寒い空間で押し黙って居ると死体の気分になってしまう。
真ん中で横たわる貴方の様になってしまう。それはそれで良い気もするが、そんなに早く再会しても嬉しくないだろう。横たわり瞼を閉じた貴方の顔を見る。その顔に感情は無い。部屋で見つけた時と同じ顔をしている。
貴方の傷だらけの腕も心も白い布団が隠してしまった。このまま入道雲が紅を攫ってくれたのなら、貴方は生き返るでしょうか。こんな仕様も無い愚かな私を怨んでいるのでしょうか。 何年も共に生きてきた仲なのに。 貴方の事は愛していた。けれども、死後も共に居るつもりは無かった。
離れる事は勿論、寂しく哀しい事だ。けれども、死んでからも一緒じゃ、貴方も死んでいるのに息が詰まるでしょう。私はゆっくりいくから、その間私を忘れて何処へでも行って欲しい。こんな寒い部屋ではなく暖かい所に居て欲しい。死んでからはどうか悩む事無く。誰にも縛られず。風の様に自由に過ごして欲しい。それは来世でも善い。唯、悩まず、心病まず、誰かが貴方の側に居てくれれば。私以外の誰かが側に。何も気づいてあげられなかった愚かな私では無い誰かの元で幸せになって欲しい。
けれども、もし、ワガママを言っても良いのなら私が死んだ時、一目で良いから貴方の笑顔が見たい。
私はもう一度貴方の顔を見る。先程と変わらない、氷の様に冷たい顔。もうここには何も無い。氷の頬を撫でる。
「今日は、本当に寒いねエ。」
指先の冷たさが私の罪を責め立てる。自然と流れた涙は凍っていく。私から落ちる霰が止む事は有るのだろうか。

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