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□音
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ファミレスのフォークは大き過ぎると思う。
ハンバーグを頼んだ時なんかは特に実感する。横に添えてあるコーンを取るのにも厭な金属音がする。合わない食器類は美味しい物をまずくさせる悪魔だ。
ピッタリと嵌る物こそ、総てを上手く廻すコツなのである。

彼女は、嵌っていないのだ。茶を飲むのは良い。だが、ティーカップをソーサーに置く時の音が不快なのである。ガチャガチャと厭な音をさせ、ケーキを食べるにしてもフォークと皿が接触するあの音が私をイラつかせる。
耳を塞いで居たいが、彼女はお喋りな人間で相槌を返さないと直ぐに「私の話を聞いてなかったのね!」と機嫌を損ねてしまう。
正直、厄介極まりない人種だ。それなのに、何故私が彼女とお茶をしているのか。それは、女の子の人付き合いは大変だとしか言いようが無い。これは、今後の安泰の為の試練なのだ。
上手く廻す為に、時には形を変えて嵌らなければいけない。
柔軟な人間こそ、社会を生き抜いていける。そう考えると、彼女は社会でも生きていけれないだろう。嵌っていないのだから。
この不快なお茶会を辞めたのなら、きっと私達は安泰なのに彼女は無理に嵌ろうとする。彼女は己の硬さに気付いていない。彼女には、柔軟な猫の素質は無い。先ずはそれに気付かなければいけない。

私は。私も、嵌っていなかったみたいだ。
気付かせようとしたのが間違いだった。彼女は律儀だ。嵌っていないのに凝っていた。それが間違いだった。
今日も彼女は私に怒鳴った。煩い烏の様なこえで。煩わしい。カップがソーサーの上でタンゴを踊る。鬱陶しい。今日のおやつは洒落たパンケーキだった。彼女の咀嚼音が、汚らしく響く。煩い。うるさい。
食器が一度、擦れる音。
そして、悲鳴。
食器が、彼女が大きな音を立てて崩れる。

うるさい。

うるさい。

うるさい。

彼女は、凝っていた。様々な大きさのスプーン、フォーク、ナイフを揃えていた。
このまるでファミレスの様なナイフは大き過ぎたと思ったが、どうやら嵌ったみたいだ。彼女のうるさい喉にピッタリと、そして私の耳にもピッタリと合う。
どうせ、死んでも煩いのだから私はナイフを耳へ入れる。
どうせ、死んでも煩いのだから私はナイフで鼓膜を破る。
どうせ、死んでも煩いのだから私に何も聞こえない様に。
どうせ、死んでも煩いのだから。
嵌っている。ピッタリだ。何も聞こえない。ピッタリだ。これなら彼女がカップをソーサーにぶつけても、咀嚼音が忌々しくても乗り越えられる。ピッタリだ。嵌っている。ピッタリだ。嵌っている。ピッタリだ。私は、嵌っている。

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