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□狾の葬儀
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親戚の葬儀が終わった。
彼女とは面と向かって話した事は無い。集まりで見掛けても会釈をする程度だった。彼女は西洋の人形の様に大きな目を持った綺麗な人で、猫の様に気紛れな人だったらしい。
そんな彼女の遺体は式場には無かった。どうやら、川から遺体が上がった為先に火葬したらしい。見せられない程腐敗が進みふやけていた様だ。それに母は、水で死んだ人は帰ってるから先に焼いてしまうのだと言っていた。

挨拶をする母を置いて弟と家路へ着く。
「亮お兄ちゃん、新聞の人だったね。」
弟は囁く様に話しかける。きっと、新聞に載っていた死体について言っているのだろう。数日前、近隣の川で身元不明な女の水死体が上がった。その死体が彼女だと言っているのであろう。弟は偶に実際に見聞きした様に物事を話す。否、実際に見ているのかもしれない。それは、本人にだけ分かる事である。私は多分そうだろうね、と曖昧な返事を返した。
もう日が暮れ足元に闇が落ちている。街灯は心細く灯り弟の彼女に似た大きな目を弱々しく照らす。例の川を通り掛かると弟は足を止め川辺の暗がりを指さした。良くゝ目を凝らすとそこには人であろうか何やら動いている塊が居た。その塊は街灯に照らされる此方に気が付き近づいてくる。
「お兄ちゃん」
弟が指を指しながら私の袖を掴む。
塊は徐々に輪郭を得ていく。
「お兄ちゃん」
弟が泣きそうな声で私を呼ぶ。
塊は男であった。弱々しい街灯の中でもギラギラと光る眼で私達を見ている。
私は弟の手を引いて逃げようとした。だが、弟は。
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