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□僉月
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二日前部屋の片付けをした。ノートのページを一枚ずつ破り、シュレッダーに掛けさらにハサミで細切れにしてゴミ袋へ溜めていった。写真は携帯のメモリーカードと共に一つの匚に入れ、紐で括り封をした。ガラクタはダンボールへ詰めた。私の思い出を総て匚に収めた。所詮、こんな陳腐な匚に収まってしまう程の価値しか無かった。
昨日前庭に穴を掘った。誰が植えたか知らぬ椿の下に腕が半分埋まる程の穴を掘った。その中に写真とメモリーカードが入った匚を埋めた。処分の仕方が解らなかった。誰かに見つけて欲しい気持ちもあったのかもしれない。
今日授業をサボった。初めての事で、無断だったがそんな事どうでも良かった。学校に来るとまずプールへ鞄を投げ棄てた。教科書も、プリントも、もう必要無い。そして今は鞄が小さな黒い点として見えている。チャイムを合図にフェンスを跨ぐ。初夏の風は頬を生温く撫でる。風の音に混じって微かに下の階の声が聞こえてきた。点呼を取っているのだろう。私が居ないと気が付くだろうか。遅刻なんて珍しいと軽く配うだろうか。事故にあったのではと心配はしてくれないだろう。況してや、今から死のうとしているだなんて誰が気付くものか。誰も心配なんてしてくれない。そんな存在でしかない。私が匚に納まった時、誰も後悔してくれない。なんで死んでしまったんだろうね。何かあったら言ってくれれば良かったのに。と思ってもいない事を匳に向かって喋るんだろう。そんな手遅れな事すらされないのかもしれない。私が死んだ後、きっと半年も経たずに皆私の存在を忘れてしまうだろう。今だってそうなのだから。空っぽなハリボテの様な私を覚えている人は居ない。気にしてくれる人は居ない。私が誰の思い出も持っていないのと同等に。

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