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□參番ホームロード
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何故か列車に乗っていた。窓の外を見ると紅葉の様な紅い無数の手形が質素な窓を彩っていた。

『参番ホームロード』

何故、こんな所に居るのか。その理由は直ぐに解った。俺は死んだ。そして、この列車はあの世逝きだ。普段からこんなオカルトな事は考えないが死んだ時の記憶が有るのだから仕方が無い。ここへ来る前は所謂、刑事をしていた。そして、仕事中に容疑者に刺されこの有様だ。別に悔いは無いし、未練も無い。むしろ、安心している。誰も殺さずに人生を終えれた事に感謝している。ふ、と隣を見ると白髪の男と、高校生らしき少女がボックス席に座っていた。同じ席と云う事は同時に死んだのだろうか。心中か、事故か。どれにしろ死には変わりない。周りを見渡すと他にも何人か客が居た。だが、何か違和感が有る。窓だ。白髪と少女の席の窓からは町並みが見える。その前に居る少年の席からは学校が永遠と見えている。見えるものが人によって違うのだろうか。それならば、この紅葉の様に紅い無数の手形は何を意味するのだろうか。そっと手形に触れてみる。少々かさついて、まるで固まった血の様だ。その感触に寒気を感じた。そもそも手形は外側に付いている物だと思っていた。だが、これ等は内側、つまりこちら側から付けたものである。悪戯だろうか、それとも相席者が居るのか。椅子に向き変えると女が二人、手を紅に染めこちらを見ていた。見覚えが有る。しかし、ボヤけて思い出せれない。左には水商売系の女、右には令嬢の様な女。ああ、これは。これは俺ではない。二人は、俺が現世を去るのを許していない。
水商売系の女が口を開く。
「もっと苦しんで。」
令嬢の様な女が口を開く。
「もっと側に居て。」
窓の紅は増す。この女達は、俺が殺した女達だ。前世で殺した女達だ。転生しても尚、呪い続ける女の執念が窓を染めていく。二人は笑う。嗤う。呵う。
列車が止まる。俺は隣に置いてあったコートを引っ掴んで転がる様に列車から降りる。閉まるドア越しに女達は笑う。そうして、激しい眩暈に襲われ目を閉じた。ぼんやりと頭の中で考える。女も、前世も、紅葉も総てを思い出してしまった。嗚呼、これからどうして生きていこうか。と。

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