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□參番ホームリスポーン
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その日、私は学校とは逆方向に向かう列車に乗りました。
そして、見ず知らずの場所で降り、唯宛も無く何処か遠くへ行くつもりでした。
列車から降りた時、ホームに立っていた先生と目が合いました。

『參番ホームリスポーン』

「偶然だね。」
白いマスクに、白いワイシャツ、顔を隠す白髪を靡かせ佇む清人先生は笑っているのかすら解らない。私の苦手な先生でした。
「先生は、遅刻ですか?」
私が尋ねると、首を振り私の腕を掴みました。そして、そのまま列車に乗り込んでしまいました。
私達は、学校からまた遠くなって行きます。
「先生は、学校に行かないんですか?」
確か、今日は先生が受け持つ家庭科の授業が有ったはずなのです。
清人先生は一度、首を縦に振り
「この日は、この日だけは学校を休まなければならないんだ。」
と、言いました。
休む、ではなく休まなければならない。
少々、引っかかりましたが私が考えても意味の無い事なのでしょう。
私達は、一両目のボックス席に座りました。
学校から益々遠くなっていきます。
先生と向かい合って座ると、なんだか、懐かしい様な不思議な感覚がしました。
先生は、ギラつく両眼で私をジッと見据えると窓の外を指さしました。
指を辿ると、町並みに不釣り合いな程の大きなビルが有りました。
「君、もし、ここで列車が脱線しあの大きなビルに突っ込んだのなら我々はどうなると思うかね?」
清人先生は巫山戯ている訳でも無く、かと言って授業の様に真面目な訳でも無く、その蜜柑はうまいかね?と尋ねる様に、変な質問を投げてきました。
私は、考えた事も無かったその事が、何故か鮮明に頭の中で展開していきました。
「ぶつかったら、無くなります。私達は、だってこの列車は四両で、あんなに大きなビルと三両分の強さで押し潰されちゃったら、無くなってしまいます。」
「そうだったな。ああ、でもあの時はまだ意識は有ったね。君が、私の潰れた腹に頭を埋めて死んだもんだから。私は、何だか居た堪れなくてね。」
何を言っているんだろう。まるで体験したかのように...。と、私は口には出さず、はてなマークを心に置きました。
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