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□煙を吐く
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『煙を吐く』フユキの事

自分でも悪趣味だと思う。
煙草はさほど好きではなかった。たまに、吸う位であったがある事に気が付き、毎日の様に吸う様になった。
サイワはどうも煙草の煙が駄目らしい。
多分、あの火災を思い出すからだろう。煙の香りを微かに感じるだけでも身体を強ばらせる。
それが、何だか面白くてイタズラ心で吸っていた。
本人は隠しているつもりらしいのが、また可愛らしいと思ってしまう。

本人にとっては深刻な事なのは解る。あの火災は壮絶だった。家は全焼、放心状態で運ばれて来た彼の顔に欲情した。
苦痛と混乱と総てを失った顔が美しかった。
男色の気は無い。ただ、素直に美しかった。

一度隣で煙草を吸った時、彼は軽い過呼吸を起こし倒れた。意識は有ったし、ただ気分が優れないだけだと言っていたがきっとフラッシュバックしたのだろう。
その時の顔は、あの顔には劣る物の美しかった。呼吸を荒くし、身体に熱を持たせ眉間に皺を寄せるその顔が好きだった。
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