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□金魚
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『金魚』サイワの事

暑い日だった。
陽炎が帰路であるあぜ道を揺らし、吐き気がした。
休日、忘れ物(たかがプリント一枚)を取りに学校へ行き、直ぐに帰ってきた。
行きに20分歩くのだ。割に合わない。
普段はバスが有るのだが、平日ダイヤと休日ダイヤでは本数が全く違う。
学生が利用しない休日は限りなく本数が少ない。その上、三時間に一本なのだ。歩いて帰らざるを得ないのである。
体力には自信が有る。腐っても体育教師なのだから。
しかし、暑さに強い訳では無い。直射日光を直に浴びる痛みとジャージで肌を守り暑さに耐えるのでは、どちらがマシなのであろうか。
自分でも、人より好奇心が強い方だと思う。
ジャージに篭る暑さなんて物はたかが知れている。こんなに晴れた日は、なかなか無い。
こんなに眩しい太陽から発せられる直射日光の痛みとはどの様な物か。
ジャージの上着を腰に巻き、Tシャツで、なるべく陽射しの強い場所を選んで帰った。
汗が溢れては渇きを繰り返す。
痛い。
乾いた笑いが出る。
半分を歩いた頃、誰も居ない寂れた神社の横に出店が有った。
今日は、祭りでも有るのだろうかと直ぐ横の掲示板に目をやるとどうやら茅の輪くぐりが有るらしい。
輪を潜り、罪を落とす。そんなもので罪が消えるのならなんて良心的なんだ。
そんな事を考え、改めて辺りを見渡すと『金魚すくい』の文字が目に止まった。
小学生の頃は、友人と競って金魚を掬っていたが、毎年その後の処理に困り帰りにドブ川に捨てていた。
今なら。
一匹位なら、飼えるかもしれない。
そんな、好奇心で準備が一段落した金魚すくいのオヤジに金を渡し、ポイを受け取った。
この、安っぽい色をしたポイすら懐かしく思える。
「珍しいねェ。お兄さんが独りで金魚すくいするなんざ、カップルならまだ居るんだがなァ。」
ただの気まぐれですよ、と少し恥かしくなり照れ隠しにと笑って見せた。
仕入れたばかりか、金魚はなかなかに速く、深く動く。
一匹だけ、不器用に泳ぎ、何度も隅に頭をぶつける金魚が居た。
尾鰭からポイを滑らせ、寝かす様に掬う。
水から上げてみたら、なんとも不気味な奴であった。
頭上に付いた二つの目玉が、ギョロリとこちらを向いていた。
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