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□噺
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『夢の噺』アキエダの事

本格的に暑くなり、人間が二人交合れば、馬鹿みたいに気温は上がる。こんな、真昼間から盛る俺も馬鹿だ。脳が処々、安い硝子で拡張された太陽光で溶けたのだろう。

俺は、女を殺した。
さっき迄、互いを求め貪って居た女だ。昨夜、酒場で出会い流れで連れ帰り、だらだらと昼間まで繋がっていた。
度々、女は己を語っていた。戦争未亡人だとか、金が無いだとか。只の情婦だったのかもしれない。だが、もう確認する事も金を渡す事も出来ない。特別、何が気に食わなかった訳では無い。具合も、顔も、仕草もどれをとっても美しく、好い女だった。そんな、好い女ほ死に顔すら美しいのか。最中、そんな考えが頭を過ぎった。暑さで朦朧とする意識の中、本能のままに腰を打ち付ける。そうして、精を女の中へ吐き出した時、女を絞め殺していた事に気が付いた。冷えた女は醜かった。泣いたのであろう、目元は化粧が剥げ黒い涙の跡を残す。口を大きく開け、目も見開いている。口紅の擦れはきっと、俺と接吻したからか。品の無い涎が口端から泡と共に零れている。

醜い。どんなに、美しい女でも死に顔は醜い。きっと、死に顔は外では無く内側の美しさが出るのだろう。俺はこの醜い女の始末を考える。手っ取り早く部屋に隠そうにもこの部屋は六畳一間だ。隠す場所なんか無い。埋めるにしても、夜に動かなければ怪しまれる。いっその事、食ってしまおうか。嗚呼、でも解体しなけりゃならないのが手間だ。そのまま、川にでも流すか。どうせ、コイツは未亡人なんだ。探すやつは居ないだろう。身元知らずの死体なんざ、幾らでも浮いている。川に流してしまおう。
夜になるまで熱を逃がす為、窓を開け扇風機をつける。それでも、暑さには適わなかったらしい。女は異臭を放ち始めた。交合って居る時は、甘ったるい薔薇の様な匂いが鼻腔を犯していたのに、矢張り醜いからなのか。早い所、こいつを何処か別の場所へ持って行きたい。開け放った窓から、顔を出す。風は無い。只、じりじりと、刺さる様な熱が有るだけだ。煙草に火を着け、煙を吸う。異臭のせいか、幾らか不味い。下を通る人々は、真逆、この部屋に女の死体が有るとは思うまい。煙を吐き出す。それにしても、暑い日だ。
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