企画

□姫
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幼いころ、彼とはよく庭でシロツメクサの冠を編んで遊んだ。
といっても、面倒くさがりやな彼にお願いされるがまま、編むのはいつも俺で、俺が編んだ冠をそっと彼の小さな頭に乗せてやると、彼はいつでも無邪気にきゃっきゃと笑った。

乗馬も勉学もクリケットも、全てにおいて優秀だった彼と“お友達”でいられた時間は、だからとても短かった。
彼は旧家に産まれた由緒正しき御曹司で、俺はその家に代々仕える執事にすぎなかった。



「侑李様、起きて下さい。侑李様、」

「やぁーだ、」

寝起きのご主人様はかわいい。とても。
やでもなんでも起きて欲しいけれど、黒い瞳がゆっくり開く、その一番最初に映るのが自分である事が誇らしかった。



「りょうすけ、お腹すいた。」

「りょうすけ、疲れた。」

「りょうすけ、僕ケーキ食べたくなっちゃった。」


「りょうすけ、チューして。」


たまに彼は、とびきりかわいい…そして何よりも俺を困らせるお願いをする。「いけません、侑李様。」と言う俺はどんな顔をしているのかしらないけれど、決まって潤んだ瞳で上目づかいに「えぇ〜りょうすけ…ダメ?」と小首を傾げられたら俺にはどうにもできない。



「仕方ないですね、、目を瞑ってください。」



侑李様の唇と自分のそれが触れている間、俺はいつも思い出す。

『りょうすけ、シロツメクサの花冠欲しい!』

俺はいつ、こんなに彼を好きになってしまったのだろうか。彼はいつ、こんなに俺を好きになってしまったのだろうか。


「りょうすけのチュー、かっこいいね。」

ふふ、と笑う彼はいつ、こんなに大人みたいな顔が出来るようになったのだろうか。


「ねぇりょうすけ、、」

「なんでしょう?」

「“侑李”って呼んでほしいな、」

「侑李様、それは…」



“りょうすけ”



高圧的な声が響いて、びくり、と肩を震わせながら顔を上げると、俺を見下ろす彼は泣きそうになっていた。

彼は普段、心配になるくらい無欲で謙虚で、高圧的になることはほとんど無かったけれど、たったひとつ欲しい物はどうしても手に入らないと知っていた。そして俺も、それを与えたくてたまらなくて、でもそれが叶わないことを知っていた。


「侑李さ…」


ま、と続けようとした俺の肩に彼の手が伸びて、乱暴に唇が彼のそれとぶつけられた。泣きそうな顔を見られないように俺にしがみつく華奢な体をさらに引き寄せて、形の良い唇の隙間に舌をわりこむ。


「少し無防備すぎます、侑李様。」

挑発的にひとつあいている彼のシャツのボタンに指を這わすと、俺の手に白く小さな手が重なった。


「これじゃダメ?ダメならちゃんと教えてよ…」



高圧的に甘く響く声に抗うことは出来ない。

叶うことのない夢を見ながら、俺は彼のシャツを脱がす。


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