STORY
□たねも仕掛けも度胸もない
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side kt
手品を仕込んだ。
三週間も前から一生懸命練習して、完璧にできるようになったと思う。
全ては今日の為。ずっと片思いしてきた相手に想いを伝える為に。
手品なんてしないと伝えられないなんて情けない気がしなくもなかったがしかたがない。
相手は「小悪魔女子(?)」代表の知念だ。ヘタしたらにっこりスルーされかねない。それにはインパクトが必要だと思った…自作の歌を作って本人にプレゼントする程の度胸は身につけたはずだ。
「じゃあ、好きなタイミングでストップって言って」
トランプ片手に目の前の知念を見据えると、知念がちょっと迷うそぶりを見せた。少しだけお酒に酔っていて、ほんのりと目が赤く潤んでいる。だからかな、彼はいつもより素直だったのかもしれない。
「やだ…」
そう呟いたのは彼だった。
「え?」
「ストップって言ったら…手品が終わっちゃって…そしたら…圭人とバイバイになっちゃう…」
「知念?」
「そんなの…やだよ…」
それは多分知念のいつもとは違う甘えだったのだけれど、これから知念に言おう、言おうと身構えていた俺には十分に骨身に染みた。知念は俺と居たいと思ってくれている、と。
「知念、大丈夫だよ」
「え?」
「これからする手品は、俺と知念がバイバイにならないための手品だから」
知念にカードを選んでもらって、そして俺がそれを、当てる。
有名な手品だけど俺はそこにアレンジを加えた…キザでもなんでも良い、数年越しの思いが伝われば良いと思った。
「知念が選んだカードは…ハートの4。」
「…そうだよ、」
「じゃあコレも引いてみて」
「・・・あ・・」
「どう?ちいちゃん」
「なんでこんな…告白みたいな…」
もう一度ひいたハートの4。その次のカードの上にはリングをしこんだ。ファッションに興味のない知念でもつけられるような、シンプルだけどお洒落なリング。
「だって、告白だもん」
「…え」
返事は今日じゃなくても良い、と言ったら知念は俯いて、そのまま小さく首を振った。「ううん、今日…今…言えるから…」。震える声は頼りなく小さくて、でも知念は俺の手をきゅっと握ってトランプを手に取った。
一枚引いたのはさっきと同じ、ハートの4。
「トランプの4は…ケイトって言うの」
「…え?」
「ハートは…愛。」
「僕も、圭人のこと…好き…っ」
俺がいくら頑張ろうとやっぱり知念は一枚上手だ。
お酒じゃない、俺のせいで染まった頬は蒸気し不安げに見上げる彼が可愛くてたまらなくて、そっとリングを彼の指に通してやった。