おはなし

□ふわふわ
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こうして閉店後の店の中、二人きりで僕のために焼いてくれたパンと淹れたてのコーヒーを食しながらオニュ兄を見つめる至福の時。
この特別感が僕には堪らなく嬉しい。

僕のためにパンを焼いてくれたって事は、僕を待っててくれたって事だよね?
そう都合良く解釈してもいいよね?

「ねぇ、オニュ兄」
「んー?」

オニュ兄は僕が問いかけるのに、帳簿を付けながらのんびりと応える。

「明日は定休日だったよね?」
「んー、そうだけど?」
そう応えながらオニュ兄は顔を上げて、それがどうかしたの?と、ばかりに不思議顔をした。
「今日さ、オニュ兄の家に泊まってもいい?」
「…えっ?」
僕がそうニコリと言えば、オニュ兄は僅かにビックリしたように眉を上げた。
「だってお店がある日はオニュ兄朝が早いし、お店が休みの日くらいしかオニュ兄とゆっくり居られないんだもん…だめ?」
僕は理屈を並べては畳み掛けるように言ってはオニュ兄を見つめた。
「ダメじゃないけどさ…テミナ学校じゃん」
僕はゆっくりだからいいけどと、オニュ兄は言って僕を見つめた。
「へへへ〜明日は大学の創立記念日で休みなんだ」
だからいいでしょ?と僕は強請るように言って懇願するようにオニュ兄を見つめた。
「そうなの?なら、まぁいいけど…」
「やった!!」
僕は嬉しくてつい大きな声を上げてしまった。
「そんなに嬉しいのか?」
僕の喜びようにオニュ兄は僕を見ながら苦笑しては肩を竦めた。
「そりゃあ嬉しいに決まってるじゃん!オニュ兄の家に泊まるなんて久しぶりだし」
オニュ兄を思う存分独り占めできるし、何よりオニュ兄に近付けるチャンスでもある。
僕はこのチャンスを出来ればものにしたい…なんて思ってる事はオニュ兄には秘密だけど。
「確かに久しぶりだね」
そう言いながらオニュ兄は僕が何を考えているかなんて知る由もなく、僕を見つめてフフッと笑った。

「ところでパンは食べ終わった?」
そう言いながらオニュ兄は僕の元へやって来るのに、僕は空のバスケットを見せながら『完食』と笑って見せた。
すれば、そんな僕を見てはオニュ兄はクスクスと笑い出した。
「なに?」
僕は何故笑われているのか訳が分からなくて眉を寄せながらオニュ兄に問いかけた。
「急いで食べたの?顎にパンのカスが付いてる」
そんなにお腹空いてたの?と、オニュ兄は笑いながら僕の顎についたパンのカスを指ではらった。
「ー!」
僕はそれが恥ずかしくてガタッと椅子を鳴らし立ち上がると、お互い様とばかりに言った。
「そっ、そう言うオニュ兄だって髪に小麦粉付いてるし!」
そう言って、僕はオニュ兄の髪に手を伸ばしてはサラサラとした髪に着いた小麦粉を指ではらった。

僕より僅かに身長が高いオニュ兄だけど、目線はさほど変わらない。
そんなオニュ兄の髪を真正面からサラリと撫でた。
すれば、僅かに体をビクッと震わせてオニュ兄はカッと頬を染めた。
「あ、ありがと…」
そう言いながら、手の甲でカッと染まる顔を隠すようにしては俯いた。

えっ?何この反応。
めちゃくちゃ照れてない?
めちゃくちゃ可愛いんですけど。

「オニュ兄?」
僕はその反応が何なのか知りたくてオニュ兄を覗き込もうとすれば、逃げるようにオニュ兄は背中を向けながら言った。
「1日中、髪に小麦粉着けてたとか恥ずかしいよね」

えっ?そっちの恥ずかしい?
いやいや、違うよね?
だって体がビクッてなってたもん。
僕の事意識したって事じゃない?

僕はオニュ兄が恥ずかしいそうにしている姿に何だか嬉しくなって笑みが零れた。

よし!今夜はオニュ兄にもっと近付いてやる!
僕はそう秘かに思っては小さくガッツポーズをしてはオニュ兄の背中を見つめた。
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