おはなし

□ふわふわ
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「ねぇ、オニュ兄。今日はふわふわパン残ってる?」
僕はキョロキョロと店内を見渡しながらパンが並べてあったであろうバスケットを覗き込んだ。

ふわふわパンとはここ『Fuwa Fuwa』で1日限定30個しか焼かない一番人気のパンだ。
ふわふわなのにしっとりとしていて、中にはパンの味を邪魔しない絶妙な甘さのメープルが隠されている。

「残念でした〜ふわふわパンは本日完売しました」
僕が店内をキョロキョロとする姿にオニュ兄はクスクスと笑いながら、空のバスケットを僕に見せては肩を竦めた。
「完売かぁ、残念」
僕はオニュ兄が見せた空のバスケットにガクッと肩を落とし項垂れた。
すれば、そんな僕を見てまたクスクスと笑ったオニュ兄はバスケットを胸に抱えては言った。
「まぁ、限定30個のふわふわパンは完売したけど…」
そう言いながら僕に歩み寄ると、項垂れる僕の顔を覗き込んでオニュ兄は言った。
「テミナが来るだろうと思って特別に1つ焼いてあるよ」
そう言ってオニュ兄はニコリと笑った。
「本当にっ!?」
ふわふわパンがあると聞いて嬉しくもあったが、それよりも特別という言葉が嬉しくて僕はオニュ兄に飛びつくように抱きついた。
「ちょっ、テミナ危ないよ」
オニュ兄は飛びつくように抱きついた僕を仕方がないなとばかりに受け止めながら苦笑した。
「ねぇ、ここで食べていっていい?」
そう僕はオニュ兄に抱きついたまま聞けば、オニュ兄は呆れたように言った。
「ここはカフェじゃないって何度も言ってるのに」
そう呆れたように言いながらも、何時もの事とばかりに苦笑しながら『わかったよ』とオニュ兄は僕の背中をポンポンと合図のように叩いては僕から身を剥がした。

「先にお店閉めちゃうからここに座って待ってて」
そうオニュ兄は言いながら、いつものように店内の隅の僅かなフリースペースに折りたたみのテーブルと椅子を用意してくれた。

オニュ兄は店の看板をCLOSEに変えると、ブラインドを閉めた。
そうしてフッと息を吐きながら被っていたキャスケットを脱いだ。
キャスケットを脱げば、サラサラとした栗色の髪が揺れオニュ兄の白い肌を撫でた。
僕はその姿に毎度ドキリと胸を鳴らす。
「今コーヒー淹れるね」
そんな僕の胸の高鳴りなど知らず、オニュ兄はそう言って僕を見てはニコッと笑った。

サラサラと揺れる髪が白い肌を撫でる姿は色っぽいのに、ニコリと笑う顔は幼くて僕はそのギャップに毎回ドキドキと胸を鳴らす。

「ありがとう」
僕はそう言って、ドキドキと高鳴る胸を隠すように笑って見せた。
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