おはなし

□ふわふわ
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メイン通りから外れた裏通り、柔らかなベージュ色の建物に『Fuwa Fuwa』と描かれた白い看板がオシャレに飾られているパン屋さん。
メイン通りから外れているにも関わらず、口コミで『美味しい』と噂が拡がり徐々に客数を伸ばしている。

そんな『Fuwa Fuwa』の閉店間際、ドアベルを派手に鳴らし僕は飛び込んだ。
「オニュ兄ー!」
ドアベルの派手な音にオニュ兄はビックリしたように肩を揺らし振り返れば、僕の姿を見ては苦笑する。
「なんだテミナか〜ビックリするだろ」
もう少し静かに入ってきてよと、オニュ兄は苦笑しながら僕を見つめた。
「お店閉まっちゃうかと思って急いで来たから」
と、僕はごめんと言って笑って見せた。

本当はわざとこの時間を狙って来ている事をオニュ兄は知らない。
閉店間際の店はお客さんも居ないし、オニュ兄を独り占め出来る絶好のチャンスだからだ。
そう、僕はオニュ兄を恋愛の対象として好きなのだ。

オニュ兄と僕の関係はというと、良くあるご近所で親同士が仲が良くて小さい頃からの付き合いってやつだ。
小さい頃よく遊んでくれて、勉強を教えてくれる優しいお兄さんだったオニュ兄に僕の中で何時しか芽生えた恋心。その恋心に気付いたのは思春期真っ只中の頃だった。
4つ年上のオニュ兄に近付きたくて大人ぶって追いかけてみても、僕が中学に入ればオニュ兄は高校と、同じ学校に通う事も出来ずに追いつけない年齢の壁にもどかしい気持ちに苛立った。
大学こそはと秘かに思っていたのに、パン職人になると専門学校に行ってしまったオニュ兄を追いかける事は僕には出来なかった。
僕の先を行き、どんどん大人に近付くオニュ兄。それは仕方がない事だと割り切る事が出来たが、僕の知らない世界で友達と仲良く話したり笑い合ってる姿を見るだけで沸沸と込み上げる怒りにも似た感情。その度にイライラし、恨めしく思う気持ちが苦しくて仕方がなかった。

オニュ兄を独り占めしたい…。

それが嫉妬だと気付くにはそう時間はかからなかったし、オニュ兄を好きなんだと認める事に僕はなんの躊躇いもなかったし、むしろかなり納得してスッキリとした気持ちになったのを今でも覚えている。

そんなこんなで僕は今でもオニュ兄を独り占めしたくて追いかけている。
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