text

□迷い込んだ兎
1ページ/2ページ




「…ここ、どこ?」


見上げれば青い空。
見慣れない服を着る人間。

━━━そして
ガラクタを積み上げたような大きな街。

ここは地球か、と思うけれどその空に宇宙船(ゴミ)は何一つ浮かんでいない、つまり綺麗だった。



事の発端は団長との些細な喧嘩だった。
わたしはめっぽう食べ物のアレコレに敏感で、その日はカツに醤油をかけるのか、塩コショウをかけるかで喧嘩になった。(ちなみに、わたしは断然塩コショウ派だ。)
いつもは大体阿伏兎が喧嘩の仲裁をしてくれるのだけど、その日は団長が溜めに溜めた仕事を阿伏兎が代わりに部屋に篭ってこなしていたので、喧嘩を止めるものなどいなかった。

仲裁人がいないければわたしと団長の喧嘩はヒートアップして、ついにわたしは強烈なビンタをくらわされた。(女と子どもに暴力はふらないって言ったのに...)
そこで意識が飛び、次に目覚めたときは見知らぬ土地にいたわけだ。

まぁ見知らぬ土地に来たらまず調べるのが先だろうと思い、ぴょんぴょんと軽く屋根を飛び越え、観察する。

「んー、なんの施設だろう。」というのが正直な感想で、見てもよくわからない。

なら直接聞いてみようと、そこらへんに歩いている人間に聞いてみると、どうやらここは"ガクエン"と言うもののようで、勉学に励む場所らしい。
言わば、寺子屋のようなものなのかな。


突然、視線を感じた。
じーっとこっちを見ているのは頭にトンガリがある少年だった。
すこし迷ってから、わたしはトンガリくんに声をかけた。


「あの、わたしに何か...?」

「アナタ、誰ですか?」

「はっ?」

「質問に答えてクダサイ」


トンガリくんは無表情のまま、ギリッと歯を食い縛る。
その顔が怖くて、わたしは慌てて答えた。


「わたしは、...名無しさんって言います」

「ハァ、名無しさんですか。名無しさん、その服と傘は何デスか?...兄上のコスプレと同じようなものですか?」


えええ、質問が多いし兄上って誰だと思いつつも、まぁこんな格好してたら不思議に思うよねと1人で納得した。
周りの人間たちは同じような服を纏っているのに、わたしは赤い傘、黒いマント、白と黒を基調とするチャイナドレス、白のパンツ、黒のブーツであった。
トンガリくんも変わった格好だと思うけど、周りから見たらわたしも負けてないだろう。


「これはコスプレじゃないよ。ええとね、傘は紫外線から肌を守るためで、この服は......動きやすくするためかな」


ここが異世界なら、わたしが戦闘民族【夜兎】であることを隠したかった。
元々わたしは夜兎であると言うのに、あまり戦闘は好きじゃなかった。
ただ業務として淡々とこなしていく仕事としか思っていなかったし、そんな自分にも嫌悪感しか抱かなかったから。
このトンガリくんが誤解してくれるのはありがたい。


「やはりニンゲンというのは脆いのですね」

「まぁ、そうだね......って、あなた人間じゃないの?」

「ハァ...ボクのこと、知らなかったんですか?」


無表情なのは変わらないけれど、どこか怒りと呆れが入り混じっている感情が見て取れた。
どうやらわたしがトンガリくんのことを知らなかったのが気に障ったらしい。


「ごめんなさい。わたし、記憶をなくしてて」


この際記憶を無くしたということにしておけば、事をよく進められるんじゃないかと思って、わたしはそう答えた。


「...ボクは地の王、アマイモンです」

「アマイモンさんでしたか。よろしくお願いしますね」


そう言ってわたしが微笑むと、無表情のまま「地の王によろしくなんて、名無しさんはおかしな奴ですね」と、かなり手厳しいことを言われてしまった。
「はぁぁ、これからどうしよう」と無意識に呟くと、アマイモンさんは首を傾げる


「では、兄上に相談してみましょう」


その言葉にわたしは「へっ」と間抜けな声を出すと、アマイモンさんはわたしを軽々と抱き上げ「ビョーン」と言いながら飛んだ。


「ひぎゃぁぁああああ」

「名無しさん、うるさい」


驚くのはおかしいと思われそうだけど、夜兎だからって、こんな高くは飛べから!!
やっと辿り着いたと思ったら、アマイモンさんはすがすがしい顔をしながら今度はダイナミックに窓をぶっ壊して、全体的に高価そうな部屋に降り立った。


「アマイモン!!!あれほどモノを壊すなと......その女性(レディ)は?」

「これは名無しさんです。迷ってるようなので兄上のところへ連れてきました」

「ホゥ...アマイモンが...」


これはこれは珍しいと言った感じで、目の前の男はニィッと不敵に口角を上げる。
というか、この状況がよく分からないんだけど。


「えっと...アマイモンさん、この方は?」

「アマイモンでいいデス。ボクの隣にいるのは「私(ワタクシ)、正十字学園理事長メフィスト・フェレスです。以後、お見知りおきを☆」


軽やかにウィンクをして笑みを浮かべる姿は胡散臭い。
団長の笑みとはまた違った感じだ。


「ところで名無しさんさん、そのお姿は?」


いや、あなたに言われたくないけどと心の中で呟きながら「あぁ、これはかくかくしかじかで」と先ほどアマイモンに伝えた内容と同じこと、ついでに今後のことに支障が出ないよう、記憶喪失になっているということ(もちろん嘘)をメフィストさんに伝えた。


「なるほど...ねぇ。そうだ、名無しさんさん」

「はい、なんでしょう」

「祓魔師になってはどうでしょう☆」


ナニイッテンダコイツ目線でメフィストさんを見る。
そもそも"フツマシ"ってなんだ。
ていうかなんでそんな軽いの...
コンビニ行こうぜ!って言われてる感覚と全く同じなんだけど。


「名無しさんさん...?」


でも、わたしはここで生きていく術を知らない。
だから取り敢えずはこの人に従おう、そう思った。


「わかりました、祓魔師になります。これからよろしくお願いします!」

「よろしい!!!私からも、よろしくお願いしますね☆」




実はよろしくなんて言いましたけど、私あなたの事を見てたんですよ☆、なんて口には出しませんけど。
驚きましたよ。何も無いところからあなたは突然現れましたし、人間とは思えない跳躍力を見せてくれましたから。
まるで天使が降ってきたと、私(アクマ)らしからぬことを思い起こされました。

一体、貴方はどんな玩具になり私を楽しませてくれるのでしょうか。

クククッ楽しみで仕方ありません。

...おっと、紳士らしからぬところをお見せしてしまいましたね。

さぁ、お話の再開だ━━━


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ