D.Gray−man2

□叶わない想い
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「…何やってんだ?」


食堂で飯にするぞとかなんとか言って立ち上がったクロスを追い、その後ろをついていこうとしてバランスを崩したシルクは、クロスによって地面に倒れ込む寸前で優しくその身を支えられた。


「腰でも痛むのか?」


問いかけて、けれどもいつもと比べれば腰が痛むほど激しくした覚えもないなと思い直すクロス。

それなのに中々自力で立ち上がる様子を見せないシルクを怪訝に思い、クロスがその顔を覗き込んでみると、


「お…」

「お?」

「酒…」

「は?」


とりあえず聞こえてきた単語に従い、クロスが手近な酒瓶を取って口元まで持っていってやれば、すごい勢いで顔を背けられた。


── …なるほど、そういうことかよ。


「お前、酔ったな?」


部屋いっぱいに充満する匂いと、その空気に。

免疫のない、しかも成人にも満たないシルクがそんなところで喘ぎ、体を重ねたのだとすれば、それも何らおかしい事ではなかった。


「 って、おい!」


酒瓶の山から逃げるようにベットにもぐり込もうとするシルクを、クロスは素早く抱き上げることで止めた。


「この部屋が原因でこうなったってのに、逆に閉じこもろうとしてどうする」

「だってクロスっ、…臭う!」

「オレが臭うんならお前もだろうが」


── 何びっくりしたような顔してこっち見てやがる。


「戻ってきたら一緒に風呂入ってやるから、それまでは我慢しろ」


仕方ねェと笑い、何が何だかわからないといった顔をするシルクを抱えて部屋を後にしたクロスだったのだが、出てすぐその前の廊下に立つ人物を見て、露骨に眉を顰めた。



「…最悪だな」

「ずいぶんと遅いお目覚めのようですな。マリアン元帥」


いつから待機していたというのか。

そこには蛇のように鋭い眼光を向けたまま、後ろにはリンクを控えさせた状態で向き合う、マルコム=C=ルベリエの姿があった。


「昨日はよく眠れましたかな?」

「あいにくと、万全な状態からは程遠いもので」

「ほぅ…そんな感じは全くと言っていいほど見受けられませんでしたが」

「!」


ルベリエのその言葉に、クロスに抱かれたままのシルクの肩が震えた。

ルベリエはクロスが何も言わないのをいいことに、悠然とその前まで歩み寄ってくるとシルクに触れようと手を伸ばして──


「…何のつもりですかな?」

「それはこちらのセリフでしょう」


その手を掴み、止めたのはクロスだ。

ルベリエは掴まれた手こそ振り払わないものの、これ以上ないというくらいにまでクロスの胸元に身を寄せて距離を取ろうとするシルクに、鋭い視線を向けた。


「手懐けたつもりかね?」

「そう見えるんなら」


涼しい顔で言い放った割に、クロスがルベリエの右腕を掴む力はかなり強い。

それを受け、ルベリエも強い瞳でクロスを見返した後、口を開いた。


「いくらあなただとしても。
私に逆らうということは許されてないのだと、昨日の段階でご理解いただけたと思っていましたよ」

「…っ!!」

「やめろシルク」


反射的に左目から武器を取り出そうとしたシルクの瞳。

それを掴んでいたルベリエの右腕から離した片手でもってクロスが覆い、阻止した。


「なん、でっ…だってでもクロスにっ…!!」


── クロスにだけは何があっても!!

何があったとしても傷付いてなんかほしくない!!欲しくないのにっ、


「なん、で…」


瞳を覆うクロスの手を虚しく掻いて。

敵わない、叶わない想いに嘆いた。



「…まったく。なんて面倒くさい事を」


そのシルクを見て、ルベリエは忌々しそうにそう呟く。

ルベリエのその苛立ちの理由は今現在、シルクがクロスにかなり心を許してしまっている点にあった。

…そして、恐らくそれはクロスも同じで。

表にこそ出さないものの、二人のこの態度をみれば明らかな事だった。



「いずれは身を持って知ることになるというのに」


ならば、それは早い内に。

早いうちに引き裂き、離してしまう以外他に道はないのだ。


「三日後が楽しみですな、クロス元帥」


ルベリエはそう告げると同時、くるりとクロスに背を向けて遠ざかって行ったのだった。


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