「エクソシストが戦場に立つのは当然のことだ。 何ももたない一般市民に比べ、対抗しうる武器を持っているのだからね」 「それでもただ従うだけの…道具なんかじゃ、ないっ…!!!!」 「誤解してもらっては困る。私は君を、道具として従わせようだなんて事は思っていない」 なにしろ千年伯爵が狙っている、我々の唯一の切り札なのだからと続けるルベリエ。 「我々だって平和を望んでいるし、そこまで非道な訳ではない。体を張って戦場に立つ君たちに…サポートを惜しむつもりなどないよ」 「だったらなんで…!!」 何で、 「クロスはここにいないの…?」 光量の少ないこの部屋で。 見慣れぬ人を前に募る不安を、それを消せるのは彼一人しかいなくて… 「私をサポート出来るのはクロスだ、け…うっ!!!」 「子供が何を…!!」 知ったような口を!!と。 そう続けるルベリエの顔に混じる、明らかな怒気。 それと同時に無抵抗なシルクの顎にかけている指の力も変わって。 「千年伯爵が何故君を狙っているのかについて、彼は知ってるのかね?君の対アクマ武器の能力について── 彼が完全にそれを理解していると?」 「っ…あ……」 顎から首へと移るルベリエの手。 その手がシルクの白く細い喉にかかり… 「やっ……め、」 悲鳴さえ殺され、ついにシルクが覚悟を決めたその瞬間、 バンッ!!!! 「ルベリエ長官!!」 あまりの痛みから遠のくシルクの意識を救ったのは、黒の教団室長であるコムイ・リーの声だった。 「な……ッ?!!シルクに何てことを!!!!」 「長官の部屋を勝手に開けていい権限は、いくら室長である君といえどもないはずだが?」 「こんな事聞いてません!!!」 「言う必要もないだろう」 「コ…ムイ、さ……」 静止をかけてくれた相手は理解したが、ルベリエのせいでシルクはそのコムイの方を向くことすら叶わず、切れ切れになる言葉。 「いくら長官でも…それ以上するならこちらも黙っていませんよ」 そう言うコムイの後ろから現れたのはアレン、ラビ、リナリー、神田の四人だった。 それぞれが発動を解いて構える、対アクマ武器。 「勝ち目のない相手は敵に回さない方がいい── 味方であったことが幸いしたようだな、コムイ」 「…やッ!!」 「シルク!!!」 ルベリエが離した手から急いでシルクを抱き寄せたのはアレンだ。 「大丈夫ですか?!シルク」 「…っ、」 抱き寄せたシルクの肩は細く。 少し力を入れただけで折れてしまいそうなこの少女が今、一番求めている人の存在を… その存在が誰かを自分は痛いほど分かってはいるけれど… 「…ぁ、っ」 「少しだけ我慢してください」 ルベリエにより上手く酸素の取り入れを出来ないでいるシルクの顎に手を添え、気道を上向けてその喉を優しく撫でてやるアレン。 「師匠なら無事ですよ。後でちゃんと会えますから」 「…うんっ!!」 苦しそうな表情は変わらないが、返ってきたその返事はとても嬉しそうで。 「ア、レン?」 「……っ」 クロスの無事を聞いただけでこんなにも嬉しそうな顔をするシルクを。 こんなにも、 こんなにも愛おしいのだと… 覆い隠してせめて。 ── 君を守るから。 |