D.Gray−man2

□引き離さないで
1ページ/1ページ





「……んっ」

「気が付いたかね?」

「?!」


──視線の先。

見覚えのない鋭い眼光の男と目が合い、シルクは素早く体を起こした。


「誰っ…!!」

「初めましてになるのかな?私は中央庁特別監査役マルコム=C=ルベリエだ。君を、」


獲物を見つけた蛇のように。

ルベリエの細めた瞳はシルクを捉えて離さないまま。


「保護する為にいるのだよ」

「 ! 」


そんな訳がないことくらい、さすがのシルクにも分かった。

だから今も視線の端でクロスを探して、

クロスの無事を確認する為に思考を巡らせて。


「クロス・マリアンはここにはいない」

「!!」

「だが、君が私の質問に全て包み隠さず答えると言うのであれば── その時は快く彼を解放すると約束しよう」


…甘い囁き、悪魔の言葉。

けれども初めからシルクの意思などは聞くつもりもないというように、一つ目の問いは投げられた。


「君はもう臨界点突破を果たしているね?」

「臨、界…点?」

「言葉自体を知らないか」

「!!」


ガッ!!


「ほぅ」


瞬時に反応していなければ確実にシルクの顔面を貫いていたであろう鋭い凶器。

それはいきなり現れた第三者の不意打ちによるもので、シルクは咄嗟に右目で防御線を張った事により、既のところでそれを防いだ。


「な、に…!!」


ギリギリと押し潰すかのように迫るその凶器に、シルクも左目から武器を取り出して対抗しようと──


「リンク」

「やっ……ッ!!」


シルクが左目から武器を取り出した瞬間、かけられていた筈の圧力が変わって。

その事に一瞬怯んだシルクの隙を突き、背後に回ってきたリンクがシルクの左腕を掴んだ。


「これが新しくなったイノセンスか…」

「いやっ!!…離して!!」

「離すなよリンク」

「承知しております」


武器を持ったままのシルクの左腕を掴んでルベリエに見せるように突き出し、右手は後ろで捻りあげて動きを封じるリンク。


「この武器の名は?」

「…い、たい…っ」

「この武器の名は何かと聞いている」

「っ!!!」


ルベリエにより顎を掴まれ、強制的に覗き込まれる瞳。

シルクが必死にそのルベリエの手を振り払おうとするも、リンクの押さえつけにより虚しい抵抗に終わった。


「名、前…なんて、ないっ!!」

「なら付けなさい」

「?!」

「この戦争を駆けるイノセンスに。名前もないとはあまりに不憫だろう」

「そんなのいらな、……ッ!!!」

「この言葉の意味が分からないのかね?」


そう言うとルベリエはシルクの顎を掴む手に力を込めた。

その痛みに顔を歪ませるシルク。


「君はとうに…この戦禍の渦中にいるのだよ」


そう口にしたルベリエの瞳はどこまでも鋭く、そしてどこまでも冷たくて。



── ただクロスの傍にいたいのだと。

それだけなのに何で…叶わないの?


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]