「クロス見て!肉まん!!!」 「食べたいのか?」 汽車から降りてやってきた町で。 シルクは『饅頭屋』と書かれた店にグイグイとクロスの手を引くと、嬉しそうな顔で笑った。 やってみたい事があるのだと言うシルクにクロスが肉まんを買い与えてやると、 「はい!」 半分にして渡される、湯気の立つホクホクの肉まん。 「やってみたい事って…これか?」 ── オレ的には口移しの方が好みなんだが。 「うん!」 普段あまり何かを欲しがらないシルクにしては珍しい、と。 もう半分の肉まんを嬉しそうに頬張るシルクをクロスが細めた目で見ていると、そのクロスの視線を受けたシルクがハッとしたように顔を上げた。 「こ、これはアレンにツけてないよね…?!」 「ツけてねぇよ」 アホかとクロスが返すと、シルクは良かったとほっとしたように視線を肉まんへ戻した。 「暗くなる前に宿行くぞ」 どこかに手近な宿はないかと探しつつ、再び嬉しそうに肉まんを頬張るシルクを見て、クロスは思わず尋ねた。 「そんなに美味いか?」 「え?…んー、別に味は普通かな」 …クロス自身も食べているのだからそれは分かってるのだが。 クロスが微笑みながら咀嚼中のシルクの喉をなで上げてやれば、シルクの肩が軽くビクついたのが分かった。 「理由があるんだろうが?」 「い、言う…!言うから手、取ってっ」 猫のような扱いが嫌なのか、いやいやと首を振って離れるシルク。 「理由っていうか…その、」 シルクは食べかけの肉まんにじっと視線を落としつつ、ボソッと呟いた。 「誰かと半分こ。なんてね、…してみたいなって」 ── 生まれてから。物心がついてから。 …誰かの隣には誰かがいて。 自分にもいたら、なんて。 「私にも…“半分”を分かち合える人が欲しかったの」 そう言って俯くシルクをクロスは反射的に引き寄せ、抱き締めていた。 「クロっ……」 「いくらだってしてやるよ」 クロスと出会うまでにシルクが味わってきただろう苦痛や、感じてきたであろう孤独感。 それらをクロスが分かり合う事は出来ない。 それらを“半分”にしてやる事などは出来ない。 だが、 「これからは全部、オレが“半分”にしてやる」 「…!!」 クロスのその言葉に、シルクはポロポロと涙を零して抱き締め返してきた。 「次はどれを“半分”こにしたいんだ?」 「つぎっ、は…」 「逃走中のシルク、並びにその逃走の幇助をしているクロス・マリアンで間違いないな?」 突如としてシルクの言葉を遮り現れた数人の黒服姿の男達。 それぞれが手に持つ冷たい金属の凶器。 そのうちの一つが── シルクの手の中にある肉まんを落とした。 |