D.Gray−man2

□移動する列車の中
1ページ/1ページ





「……あ、の」

「何やってんだ?おい早く座れ」


そう言ってクロスが指し示した先。


「だ、だってそこ」


…クロスの膝の上。

もともと一つしか取らなかったという席は、確実にこの為のものなのだろう。


「わっ!!」


掴まれた腕ごと引かれ、シルクは必然的にクロスに抱きつく形となってしまった。

そのまま簡単に反転させられたかと思うと、為す術もなくクロスの膝の上にと座らされてしまう。


「い、いやだっ、クロス!!…怖い」

「怖いってなんだ」


ある程度滞在した後は足取りを辿られないよう、その地を後にするのが毎度の事で。

そして現在はその移動真っ只中の汽車の中だった。

なのだが──


「座席代もケチれて良いだろうが」

「ア、アレンにツけてるくせ……うっ!!」

「お前も言うようになったじゃねぇェか」


教団の関係者だと言えば座席代もかからない。

けれどもクロスが敢えてそうしないのはそこから自分たちの居場所を特定されない為であり、故にかかる費用は全てもう一人の弟子であるアレンに付加されているのだった。


「オラ、大人しく窓の外でも見てろ」


好き勝手シルクをいじった後クロスは横にある窓を押し上げ、シルクの体を窓外へ向かせた。


「え?…わぁ!!」


そこに広がる光景。

一面花畑の中を通り過ぎるのを見て思わず身を乗り出そうとしたら、おいおいとばかりにクロスの手が回されてきた。


「間違っても落ちるな」

「お、落ちたりなんてしないよ…!!」

「どうだか」


不満そうな顔になるシルクだったが、すぐに不安そうな顔に変わったかと思えば、身を乗り出す傍ら遠慮がちにクロスの服裾を掴んできて。

結局は素直な性格のシルクに、お前は本当に可愛い奴だよと言ってクロスはその頭を撫でた。


「抱き付いて見てもいいんだぞ」

「さ、さすがにそこまではしなくても……ッ!!」


言ってる途中で強風に煽られ、めいっぱい細い体を寄せてくるシルク。

それを見たクロスは、飽きねぇなとばかりに喉奥で笑った。


自分たちに襲いかかる危険なんてこの時はまだ──


知る由もなかった。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]