「そういやお前、力戻ったんだな」 状況は違えど。 いつも通りシルクを抱いて宿に戻る途中で、クロスはそう言った。 言われてみれば、と。今更ながらに驚くシルク。 あんなにも不安で堪らなかったのに、ソカロの件やなんやで、力を使えないという事自体を失念していた。 今更ながら、そんな状態でソカロの前に飛び出していったのかと背筋が寒くなる。 ── 本当に、ちゃんと力が戻ってくれて良かった… 「でも…武器は前の方が、良かった」 シルクは先程形を変えて姿を見せた新しい武器を思い出すと、しゅんと項垂れた。 今まで刀として扱ってきたそれは、何やら形容し難い形の武器となっていた訳で。 「オレは今のがいいと思うがな」 複雑な心境でいるシルクに対し、頭上からクロスの肯定するような声が響いてきた。 「ありきたりじゃないところがいい。…それに、」 クロスは確信めいた笑みを浮かべ、シルクの耳元にと唇を寄せた。 「オレを想って覚醒した武器、ってとこがいいじゃねェか」 なぁ?と聞いてくるクロスはいつも通りの確信犯で。 シルクはその囁きに頬を赤らめながらも、自分の中でも確かな喜びが湧き上がるのを感じた。 ── クロスを想って覚醒した武器… そう思ったら途端に嬉しくなって、シルクは自分の左目をそっと抑えた。 「…大好き!」 「それは武器に対してのモノか?」 ── まさか。 「クロスに、だよ」 力が使えないということも忘れ、とっさに飛び出していった体。 あの時イノセンスが同調してくれなかったら最早、この世にはなかったかもしれないこの命。 ── その全てを賭けてでも守りたいと思えたぐらい、クロスが大好きなんだよ。 |