「いやだっ!!やだ離してッ!!」 外で待っていたフロワから詳しい話を聞いたクロスは、無言でフロワにシルクを任せると、足早に部屋から出て行ってしまったのだった。 「駄目だってマリアンも言ってたでしょ。今は動かずに待ってる事だよ」 「でもこのままじゃっクロスが!! クロスがっ…!!!」 フロワは自身の腕を振りほどいて出て行こうとするシルクの体を優しく宥めると、向かい合った。 「マリアンだって怒ってるんだよ」 「怒…る?」 「大切な君を傷付けられたんだからね」 優しくその頭を撫で、クロスが出ていったドアの方を見やるフロワ。 先ほどのクロスの姿と、出て行った際の表情。 あれを見ればクロスがいかにシルクの事を大事に思っているかという事は一目瞭然で。 そして同時に、 「シルクは、マリアンの事が好きかい?」 フロワがそう問いかけると、シルクは大きく頷いた。 一体いつの間に…とフロワは頭を抱えるが、こうなってしまった以上、フロワでなくとも想い合うこの二人を引き裂く事など出来はしないだろう。 だけどもあのマリアンがねぇ…と、フロワは肩を竦めた。 ── マリアンが破天荒なのは今に始まった話じゃないけど…一番の問題は、この子が中央の連中から追われているって事なんだよねぇ… それと併せ、先程のソカロの件だ。 フロワでなくとも頭を抱えたくなる問題であるのは間違いないだろう。 「…ちょっとちょっと!!」 フロワが考え事をしていて手を弛めた隙に、シルクはするりと逃げ出してしまった。 そのままドアを開けて出て行こうとするシルクの背に、フロワは慌てず静かに声を掛ける。 「シルクがマリアンを好きなのと同じくらい、マリアンだってシルクの事を想っているんだよ」 フロワのその声に、シルクは扉に手を掛けたまま動きを止めた。 「だから怒って、君が傷つけられた代償を払わせに行ったんだよ シルクは、マリアンが誰かに傷付けられたとしても何とも思わないかい?」 「?! …そんなの嫌!!」 間髪入れずに叫んだシルクを見て、そうだよねと優しく微笑みかけながら近付くフロワ。 「それと同じだよ」 「…同、じ?」 「大切なものは守る男だからね、マリアンは」 そう言いながらフロワはシルクの肩に手をかけ、再びベットの方へと誘った。 「だからこそマリアンも許せないんだと思うよ。自分の目の届く範囲で起きた今回の件には、ね」 滅多に感情は表さなくて。 一人の相手にここまで執着したマリアンを見るのは初めてのことだったから。 「……して」 「ん?」 「離してっ!!!!」 叫んで、今まで以上に暴れ出すシルク。 慌てて抑えようとするフロワだったが、どこまで加減をすればいいのか分かり兼ねている間に振り払われてしまった。 挑むようにキッとフロワを睨みつけるシルク。 「大切、なら…!! お互いが守れなくっちゃ駄目なのっ!!私だってクロスを守れなくっちゃ…っ、駄目なのっ!!!!」 確かにクロスは私の事を守れなかったけど…でも、それにいきり立つクロスを今度は私が、私が守れなかったとしたら何も解決しないのっ…!!と声を上げるシルク。 「大切なものを守るのは…クロスだけじゃないっ!!!」 泣きそうに歪んだ顔のまま。 それでも意思だけは強い光を携えた瞳のまま部屋を飛び出していく、シルクの小さな体。 …止めることも忘れた唇で── 吐息とともにフロワは頭を掻いた。 「大切ならお互いが守れなくっちゃ駄目、か。 …マリアンも良い子を拾ったもんだね」 想い合う気持ちは同じ向きで。 けれど、向き合っている以上は互いに互いを守り合わねば駄目なのだと。 教えてくれた少女がマリアンのものなのが少し、羨ましかった。 |