D.Gray−man2

□付けられた“傷”
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「…失礼するよ」


フロワは二人が泊まっている楼閣に入ると、シルクに教えてもらった部屋の前でそう声掛けた。

買い物を終えたシルクが入ってこれるよう、鍵はかかっていない。

それを確認したフロワが扉を開くと、不機嫌そうに眉を顰めて煙草をふかすクロスと目が合った。
返事をせずとも扉越しの気配から、相手が自分と同じ元帥格であるフロワだと気が付いていたのだろう。


「…何でテメェがシルクを抱いてやがる」

「私の事よりもまず、この子の傷の具合を先に見てあげなさい」

「傷だァ?」


さらに訝しげに問うクロスだったが、声を殺して泣くシルクに気付いたのか、押し黙った。

フロワがそのクロスに差し出すようにしてシルクを寄せると、シルクはすがるようにしてクロスの胸に移る。


「…おい、どうした?」


見たところこれといった外傷はなくて。

── が。


「…おい!!」


さっきまでフロワの服に顔をうずめるようにしていたせいで気付かなかったが、ところどころ乱れているシルクの団服。

釦の取れたそれは自然に取れたと言うよりはむしろ、誰かに無理矢理引き千切られたようなそれだった。


「何があった?」


クロスは首を振るシルクをベットに降ろし、優しくその背を撫でてやりながら、背中ごしにフロワへ問いかける。


「詳しくはわからないよ…私はたまたまその子がソカロに乱暴されていた所へ通りかかっただけだからね」

「…何がたまたまだ。上の連中に、こいつを連れ戻すよう言われて来たんだろうが」

「いやだ…っ、…!!」


クロスがシルクの体に巻いてあるフロワの上着を取ろうとするも、第三者の目をはばかってか、素直にそれを受け入れようとしないシルク。

それでもクロスが少し力を入れれば、あっけなくそれは取り払われた。


「…クソ!!」


その体に残る痛々しいアザと、両手で顔を覆うシルクを見て、ここから先はとばかりにクロスがフロワをひと睨みすると、フロワはそれを察して部屋の外へ出ていった。


「触るぞ」

「い…ったい!!やああぁ!!!!」


クロスがシルクの両足を開かせ、その秘部に少し触れただけなのにも関わらず、かつてないほどまでに暴れるシルク。

それを見たクロスの瞳にはかすかなやりきれなさと、それを上回る怒気が滲んだ。


「やだああっ!!…やあああッ!!!!!」

「オレだシルク!!」


触られた事でソカロを思い出したのか、小さな拳でクロスを叩いたり殴ったりする体を、強く強く抱き締めて背中を撫でてやった。


「…ッ! やだやだやだっ!!!クロスじゃなきゃや、だっ……やだよっ…」

「!」


きっとソカロに体を開かれても、こうして拒絶を示したのだろう。

それが相手を怒らせ、酷く扱われる原因だとしても…


「クロスじゃなきゃやだっ…クロスじゃな、きゃっ…」

「もういい」


ひたすら涙を流すその目元を舌で拭い、口付けてやると、その感触にようやく目の前の人物がクロスだという事に気がついたのか、ゆっくりと顔を上げるシルク。


「…ク、ロス?」

「初めからそうだ馬鹿」



こんなにも小さな体で。

クロス以外は嫌だと泣くシルクを、


「…っふ、うっ…」


── オレ以外のやつが泣かせていいわけがねえんだよ。


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