D.Gray−man2

□オレを信じろ
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「それで…ね、その……」

「何だ」


意識を取り戻したシルクは、クロスがかけてくれた布団から顔だけ出すようにして小さく呼び掛けた。


「力…使えなくなっちゃったの」

「あ゛ぁ?」


クロスのドスの効いたその声を聞いた瞬間、シルクは再び布団にくるまってしまった。


「…怒らねェから正直に言ってみろ」


その布団を簡単に引き剥がし、シルクを自分の前に引き出して問いただすクロス。

シルクはクロスと目を合わせないように視線を下げたまま、消え入りそうな声で呟いた。


「注射、でっ…なんか、液体みたいなの入れられたら力、使えなくなっちゃったみた……ッ?!!!」


クロスの上げた右手に、シルクは反射的に目を瞑った。


「誰にやられた?」


怖がるシルクに反して優しく左瞼をなぞるクロスの指。


「…ティキ、とかいう人」


その名を口にして、思い出せば思い出す程に蘇る恐怖から、シルクは無意識のうちにクロスの腕を掴んでいた。

それは褐色の肌の── …狂人。


「クロスのっ、足手まといにならないって…っ 決めた、のにっ……!!」


とめどなく涙を流すこの両目に、けれども宿る力はもうなくて。


「せっかくクロスの側にっ…いられると思ったのに…!!!!!」


だけど何も持たない、使えない自分にはもはや、クロスと一緒にいる価値などない。
それなのに縋るだなんて出来ない。


また一人になる恐怖が…
戻ってくる逃亡生活が……


「怖いっ、よ…」

「馬鹿が」

「 ! 」


一瞬にしてクロスの匂いがきつくなったかと思えば、シルクはその腕の中に包まれていた。


「対アクマ武器を一生使いものにならなくさせる薬なんざ、聞いたことねェよ。一時的なもんだから安心しろ」

「でもっ…一生使えないかもなって…!!」

「お前は何でもかんでもすぐに信じすぎなんだ」


純粋で、従順で。
クロスからしたらこれほどまでに可愛いく、愛おしいと思える相手はいないのだが、それ故にこの傷つきやすさは…と逆に心配してしまう。


「暫くしたらまた元に戻る。それまで、俺がずっとついててやるよ」


これでもまだ不安か?と問いかけてやれば、シルクはふるふると首を振って涙を拭った。


「不安に思った事はすぐ俺に言え。お前の事ならいつだって、何だって聞いてやる」


驚いたように目を見開くシルクに、こんなにも自分はこいつに惚れてるのかと自嘲するが、同時に悪くねぇなとも思った。


「約束できるか?」

「…うんっ!!」


俺の存在でこいつが満たされるのであれば、俺だって満たしてやらねぇと…な。




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