「終わりましたか?ティキぽん?」 ティキがシルクを連れて向かったのは、先ほど一旦別れた千年公の元だった。 「効き目が薄れる前にダウンロードを完成させないといけませんからネェ」 「やっと捕まえたのかよ〜!シルクの奴!!」 「ヒッ!」 そう言ってシルクの顔を覗き込んだのは、二人組の男だ。 「イタズラしちゃ駄目ですヨッ。デビット、ジャスデロ」 二人は千年公のその言葉にはいはいと頷くも、デビットと呼ばれた方の男は突如としてシルクの髪を掴み、無理矢理上向かせた。 「…いッ…!!」 「へぇ。よく見たら結構可愛い顔してんじゃん。 前の時はあんまし顔見えなかったもんな?ジャスデロ」 「ヒヒッ」 「二人トモ」 メガネの奥の目が笑ってない千年公を見て、慌ててデビットはシルクの髪から手を離した。 「ロードの様子を見てくる間、何もしちゃ駄目ですヨ!」 千年公は二人にそう念を押すように告げると、どこかへと去って行った。その後ろ姿を目で追いつつ、首を竦めるデビット。 「……怖えぇ!そんなに大事なやつなのかよ?」 「怒られてやんの。ヒヒッ」 「うるせぇ!!」 二人の掛け合いから目を離したティキはシルクに視線を移し、呼び掛けた。 「おい」 けれどもティキのその呼びかけに反応せず、何かを考えるように俯いているシルク。 「おい!!!」 「?! …やッ!!」 ティキは無理矢理シルクの顎を掴むと、強く自分の方を向かせた。 「何を考えてる?」 「いっ、たい…っ」 抵抗の為に上げたシルクの手を逆に掴み返したティキは、嫌がるシルクの瞳を覗き込んだ。 「今、何を考えてた?」 「な、にも…考えてなんてない…っ」 「ここから逃げる方法でも考えてたか? やっぱ力ずくで教えねェと…わかんねぇかよ?」 「……ッ!!!!!」 その左目にかざされる、ティキの大きな手。 「発動出来ない時に左目に手ェ突っ込んだらどうなるか」 蘇る痛み。 必死で振りほどこうとするシルクの抵抗をものともせず、ティキの手はシルクの左目に徐々に迫ってきて── 「それ以上そいつに触るんじゃねぇよ」 「なっ?!! クロステメェっ!!!!」 突如として現れたクロスの気配に、真っ先に気付いた双子が突進して行った。 「お前らの相手をしてる暇なんざねェ」 「ハッ!当たるかよ!!」 「ヒヒッ!」 クロスが放った銃弾から逸れ、一気に距離を詰めようとする双子。 しかし、次の瞬間その瞳は驚いたように見開かれた。 「…ッな?!」 「断罪者の弾丸はターゲットにブチ込まれるまで止まらない」 「デビッ…ッヒ?!」 助けに回ろうとしたジャスデロも巻き込まれ、二人は揃って地面に倒れ込んだ。 「クロス!! …やッ!」 「おっと」 駆け出そうとしたシルクを強く押さえ付け、クロスの前に立ちはだかるティキ。 その背中を巨大な黒い蝶達が覆った。 「何をするつもりなのかは知らんが…死にたくなかったらそこをどけ」 「あいにく、簡単にやられるほど弛い留守は頼まれてないんでね」 ティキを取り巻く無数の黒い蝶。 ざわめく羽音が空気を裂いた。 |