『お前にとって大切なのは集中力だな。 個々で能力が違うイノセンスの力を最大限に発揮させて使えるようにするには、集中するしかないからねぇ』 「っ…! やだっ!! やだぁっ!」 いつかのハルの言葉が頭の中で渦巻いて。 ── 今こそ集中しなくちゃいけないに!! この手を振りほどいて、イノセンスを解放しなくちゃいけないのに…!!!! 「やだやだや……いッ…!!」 「大人しくしてないと、何処に刺さるか分かんねえぜ?」 注射器のようなものを持ち、抵抗するシルクを押さえつけるのは、ティキ・ミックと呼ばれていた男で。 その恐怖により逸れる集中力から、シルクはハルの言葉を実行出来ずにいた。 「やあ──── ッ!!!!」 プスッ わざとなのだろう。 男の持つ注射針はシルクの首元に刺さり、シルクはその痛みと恐怖から、凍りついたように抵抗を止めた。 「っ……ぅっ、ぁ…」 どくどくと流し込まれる冷たい液体。 ── 痛くて、怖くて。 「やっ…だっ……」 「あと少しだって」 ぎゅっと瞑った瞳からポロポロと涙が零れた。 その雫がティキの手に伝い落ちると、彼は満足そうに笑って。 そして全ての液体を流し終わると、ティキは優しくシルクの頭をひと撫でした。 「……ん?」 そしてその首元からゆっくりと注射針を抜くティキの視線が── ある一点を見つめて止まる。 「なるほどね」 ── だからあんなにクロスクロス連呼してたってワケね。 「…やっ…なにっ…」 ティキの指がなぞる、クロスが残してくれた所有痕。 へぇ〜と低い声で目を細めるティキに、シルクの震えは止まらなくて。 本能的に伴わない集中力のまま右目の防御を発動しようとしたら、 「…?!! 何、で…、」 何も起こらない右目。 「あ?…あぁ、さっき流し込んだあれね。 お前らエクソシストの能力を麻痺させる薬なんだわ」 人によって麻痺する時間は異なるみたいだけどな、と笑って。 ティキは愉快そうにシルクの耳元に唇を寄せた。 「お前の場合は一生、かもな」 「ッ!!!」 その言葉に限界まで見開かれるシルクの瞳。 それを見て、ティキの中でかつてないほどの快感が自分を支配するのが分かった。 ……快楽。 これほどにまでノアとしての自分の能力を意識した事はない。 「くっ!! 本当に最高だよ、お前」 歪んだ狂喜。 それが目の前の女を前に埋められていくのが分かった。 「ク…ロスっ、クロス…!!」 望みのない人物に助けを求める声が、頬を濡らす涙が。 簡単にねじふせる事の出来る自分の下の、この細い体が。 ── 最高のスパイス。 「お前が千年公のシナリオに入ってなかったらな…」 力ずくでも手にいれられたのに、と。 「残念だよ」 |