D.Gray−man2

□殺される悲鳴
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「ハルっ、ハル…!!!!」


ティキに首を掴まれたまま。
何処ともしれない場所を歩きながら。


「ハ……ッん!!」


シルクが更にあげようとした声は、男の大きな手に塞がれた事によって奪われた。


「千年公の挨拶用に声とっとけ」


そう言う男をシルクはキッと睨みつける。


── せっかく、せっかく笑ってくれるようにもなったのに!!
ハルの人型だって、初めて見たのにっ…!!


ガリッ!!


「… お前ッ!!!」


「あー!! ティッキーが噛まれた〜」


男がシルクの口から手を離すのと、三人目の声とが響いてきたのは同時だった。


「キャー!!可愛いーっ!!」

「…うっ!!」


そして突如として現れた女の子がいきなりシルクに抱きついてきたのと、男が首を掴んできたのが同時だった為、シルクは一瞬息が詰まって窒息死するかと思った。


「何してんのティッキー。手ぇ離してよ〜」

「…お前ね、今オレこいつに噛まれたんだけど?」

「ティッキーが嫌なことしたからでしょお〜?」

「ロード」


けれどもロードと呼ばれた女の子はティキのその表情と低い声に気付くと、しぶしぶといったようにシルクから体を離した。


「千年公、頼むな」

「…あんまり酷くしちゃ駄目だよぉ」

「分かってる」


ティキは去っていくロードを見送ると口で手袋を脱ぎ、血の滴る褐色の手をシルクの前へ差し出した。


「舐めろ」

「やっ、……」


シルクの唇にその手を押し付け、低い声で告げるティキ。

状況は違えど、かつてクロスが言ったのと同じ言葉、同じ台詞にシルクは激しく首を左右に振って拒絶を示した。

相手がクロスじゃないだけで、こんなにも。


「… やだっ!!!!!」


嫌だと訴えるシルクに、けれどティキは更に無理矢理その手を押し付けてきて。


「先に言っとく。次噛んだら…」

「…っ!」


押し付けられる手とは反対の手で掴まれる首に、上げかけた悲鳴はその場で殺された。

ぎりぎりとシルクの細い首を絞めつけながら…残酷に続きを口にする男。


「このまま絞める」

「…ッあ、!」


だからほら、と促して。

ゆっくりと口を開いたその中に、ティキは素早く自身の指を滑り込ませた。


「っう…ひくっ…」


涙を流してその指を舐めるシルク。

その姿にもっと泣かせたい衝動にかられ、ティキがシルクの喉奥まで指を進めると、シルクは今度こそ渾身の力でもって本気で暴れてきた。


「ック。いいねぇ…お前」


その瞬間自分の中を占めるどす黒い何かが頭をもたげてきて。

ティキがこのままシルクのこの細い体をめちゃくちゃにしてやりたいと思った瞬間、ただならぬ気配を感じて背後を振り返った。


「駄目ですヨッ、ティキぽん!」


言葉とは裏腹に目が笑っていない千年公を見て、仕方なくティキはシルクの口内に突っ込んでいた自身の指を引き抜いた。


「やーっと会えましたネェ、シルク?」


咳き込むシルクの前に立ち、その顔を優しく覗き込む千年公。


「…!!」

「ティキぽんが怖かったんですネ?可哀想ニ」


太った腹にシルクを抱き寄せると、千年公は優しくシルクの頭を撫でた。


「…っ、クロスの、」

「何ですカ?」

「クロスのところに帰して…!!!」

「シルク」


涙に濡れたシルクの顔を上げさせ、目線を合わせるように屈む千年公。


「あの男に騙されてるんですネ?」

「っ! 騙されてなんか、ないっ!!!」

「いいですカ、シルク。あの男は我々の敵でス」

「敵はそっちだ!!!」

「イイエ、あっちの方でス」


違うと首を振るシルクの涙を拭って。


「もう何も心配しなくていいんですヨ」


口端をつり上げ、千年公は笑った。


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