D.Gray−man2

□捕 ら わ れ る
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「よぉ」

「あ……っあ…」


目の前に立つシルクハット姿の男。


「お前のせいで千年公やチビ共に怒られたじゃねぇかよ」

「やっ……!!」


男によって捕まれた首に力が込められ、シルクの瞳から生理的に流れ出す雫。


「今度は、」


男の腕を離そうと必死にもがいて。


『逃げ…ろ、シルク』

「逃がさねぇよ」


シルクに伸ばされる白い腕。

だがその手はシルクハットの男によって無情にも踏みつぶされたのだった。



















事の発端は二時間前に遡る。


『おいおいそりゃ反則だろ』


手を挙げて降参の意を示す改造アクマ。


『たった三日しか経ってないのに、すごい上達のしようだねぇ、まったく』


最初はひねくれて相手にもしてくれなかったこの改造アクマも。

徐々にしゃべってくれるようになってからは嬉しくて、シルクの修行成果も目に見えて上がってきたのだった。


「これならクロスも…認めてくれるかな?」

『どうだろうなー。主はもっと強いからねぇ』


じゃあもう一戦しよ!と構え直すシルクを見て、改造アクマはふいに笑いを止めた。


『お前もこの三日頑張ったし、息抜きにでもちょっと出かけるとするかぁ?』

「えっ?!え、優しい…!でも…」


大丈夫かなとクロスを気にして眉根を下げるシルクに、ちょっとなら大丈夫だろと返して、木の裏に身を隠す改造アクマ。


そしてしばらくして出てきた改造アクマの姿に──

シルクは驚いて目を見張った。


「すごいアクマちゃん!! 姿を変えることも出来たんだね!」

『正しい名前はハルってんだ』

「…ハル?」


短い白髪をかきあげ、ニッと笑うハルの片耳に光るのは、シルバーのイヤーカフ。


『じゃあ…行こうかシルク?』


そう言ってハルが差し出した手をシルクが握ると、ハルはふわりとシルクを抱き上げ、昼でも薄暗い林の中を走り抜けて通りに出た。

以外にもよく笑うハルが連れていってくれた先はシルクの知らない場所であり、知らない世界で。

キラキラと光る宝石やふわふわとしたわたあめを売っている露店をハルと共に回り、金魚すくいの金魚達が泳ぐ姿を眺めたりと過ごしていると、時間はあっという間に経っていた。

そろそろ帰らないと主がうるさそうだとハルに言われ、シルクもそうだねと腰を上げた瞬間、


『…ッ!! 逃げろシルク!!!!』


叫んだハルの体を突き破って出てくる、手袋をした黒い男の手。


「ハ…ル?」


視界を染めた光景に…


── 思考がついていかなかった。


力なく前のめりに倒れるハルの体と、キャ── !!と上がる悲鳴。


シルクが受け止めたハルの体は苦しそうに震えていて…


「やっとアタリかよ。…って、あ?こいつアクマか?ならなんでシルク見つけてんのに連絡しねぇんだよ?」


手についた血とは異なる液体を見た後、ハルに視線を移すその男。
シルクはその男に見覚えがあった。
何故ならその男はかつてシルクの片目を抉り、この上ない恐怖を植え付けた男なのだから…

けれども怖いとか、逃げなきゃ、という感情よりも先に、ハルを助けないと!!といった感情からシルクは男から目を逸らし、ハルの背を揺さぶった。


「ハル!! しっかりしてハル…!!」


倒れ込んできたハルの体を支えきれず、しゃがみ込むようにしてその背を揺さぶるシルクの背後を──

すっぽりと覆うようにして広がる真っ黒な男の影。


「来いよ、シルク」

「……っ!!!」


とっさに左目に伸ばした手が柄に触れた。

そのまま引き出し、男に向けて構えるシルク。


『やめろバカ…ッ!!』


刀に付いた透明な雫を見て、シルクはようやく自分は今泣いているのだという事に気が付いた。

涙で右目に防御線を張れないまま、けれども男に向かってがむしゃらに切りかかって行くシルク。

だが当然、


「…めんどくせぇな」


軽く身を捻ったただけでその切っ先を避ける男。

そして真っ直ぐに伸ばした手であっさりとシルクの首を掴んだ。


「っ、!…うッ!!」

『シルクを離せ!!』

「ったく、お前は静かにしてろよ」


歯向かってきたハルの体は空いている方の手で簡単に殴り飛ばし、地に伏せさせる男。

男は伸ばしてきたハルの最後の手をも踏みつけると、掴んでいるシルクの首ごとその体をぐっと引き寄せた。


「やっ…!やめっ、 ハルっ!! ハ…… ッ!」


叫ぶシルクを見て、男は気だるそうに左目に向けて手を伸ばしてきた。

その手を見て──

フラッシュバックした記憶から、シルクは強く瞳を瞑った。


「もう一回抉られたくなかったら、暴れんな」


『テ…メェっ!!』

「お前の相手は後でいくらでもしてやるよ……いろいろと問いたださなきゃなんねェこともあるしな」

『あぐっ!!』

「っ!! …ハル!!!!!」


男に踏みつけられたハルの手の骨が軋む。

だが痛みにうめくハルを残し、嫌がるシルクを連れたままその場を立ち去る男。


ハルは何も出来ないまま…ただその二人の背を見送る事しか出来なかった。

徐々に遠ざかっていく二人の影。


『くそおおおおおおおおぉぉ!!!!!!!』


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