「腕は落ちてないだろうな?」 「たぶん…」 この日クロスによってシルクが連れてこられたのは、木々が鬱蒼と生い茂った林の中だった。 シルクは左目から取り出した刀を構えながら同時に右目の能力も解放し、自身の周りに防御線(バリア)を張った。 「……って、あれ?クロスと戦うんじゃないの?」 「今日からお前の相手をするやつはこいつだ」 クロスが指差した先には一体のアクマ。 思わず昨日の恐怖から後退るシルクに、こいつは大丈夫だとクロスはアクマの背を叩いた。 「こいつはさっきお前が寝てる間にいじった改造アクマだ。お前を襲いに来るアクマ達とは違うから安心しろ。でもまァ、そう簡単にやられる玉でもないから本気でかかれ」 『酷い主だねぇ…まったく。弟子の修業のためにオイラの頭をいじるなんて』 「好きに来い」 アクマの言葉を無視し、傍観を決め込むように腕を組むクロス。 ── 強くなる為。伯爵から自分の身を守る為。 そして何より…クロスの元で戦えるように。 シルクは刀を握る手に力を込めた。 「うぅ…」 「まだまだだな」 砂と傷にまみれたシルクを拾い上げ、暗い道を歩いて楼閣へと戻るクロス。 シルクはと言うと、抱き上げるクロスの服にその血が付かないようにか、傷口から流れ出る自身の血を舌で舐め取っていた。 ── 猫みたいだな。 「洗ってからにしろ」 「…だって、クロスの服が汚れる」 「菌が入るだろうが」 クロスのその言葉に、今度は着ている団服で血を拭い始めるシルク。 「…え?! 待っ…!!」 「大人しくしてろ」 それを見て呆れたように笑んだ後、クロスはシルクの制止も聞かず、シルクのその顔の傷に舌を這わせた。 「き、菌が入っちゃうって今クロスが…んん……!!」 シルクの切れている口端も舐め、その言葉の続きごと奪うクロス。 「し、舌…!舌入ってるっ、クロ…っ」 口内は怪我してないというのに。 確認するように舌を入れてくるクロスに、シルクは慌てて顔を背けた。 「もう、いっ…い。クロスの舌、血の味がするっ」 血はシルクのものなのだが… 嫌がって顔を背けるシルクにクロスは仕方なく口を離した。 「顔は傷付けるなと言ったろうが」 「だ、だってあのアクマの手…鋭かったし」 避けきれたと思ってもかすめた風に混じり、何度もシルクに当たるアクマの攻撃。 「あれ?そういえば…あのアクマは?」 「あいつならさっきのとこにいんだろ。お前との修業が終わるまで、やつはあの場所から動かん」 「……そっか」 いささか可哀想な気もするが、クロスがそう言うんならそうなんだろうとシルクは瞳を伏せた。そして、 「顔……そんなに酷い?」 「酷かねェが、目立ちはするな」 クロスが嫌がるんならと、明日から顔は傷付けまいと決めるシルク。 部屋の戸を開ける為に一旦シルクを床に下ろし、鍵を取り出すクロス。 「体洗わねぇとな」 「あ、じゃあ先にお風呂…えっ?」 入ってきて良いよと言おうとしたシルクは、クロスが掴んできた腕を不思議そうに見遣った。 「オレは別に動いてねェだろうが。お前の体を洗うんだよ」 「?!!…まさか、」 クロスの言いたいことが分かったのか、必死に首を振って逃げようとするシルク。 「今更恥ずかしがるのか?」 「あ、当たり前だよっ!!」 「体を綺麗にしてやるだけなんだから別にいいじゃねェか」 「う、…」 仕方なく頷いて。 クロスに手を引かれるまま、シルクは脱衣場へと向かったのだった。 |