D.Gray−man1

□喜ばせたいのに
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「着いたぞ」


さしたる衝撃もなく、地上へと降りたったクロス。

それを見て、恐る恐るといったようにシルクもクロスの首から手を離した。


「ア、アレン大丈夫かな……」

「あ?邪魔してきたんだから仕方ねぇだろうが」


本当にどこから出したと言うのか。

突如として鎖の巻き付いた棺を解き、何やらぶつぶつと唱えだすクロス。


「ク、クロス何そ…れ……?!!」


問いかけようとして、いきなり現れた“第三者”にシルクはびっくりして後ずさった。


「聖母ノ柩。」


俺の能力の一つだと続けるクロスに、


「えっ?!ク、クロスのイノセンスって……銃だけじゃなかったの…?」

「マリアは攻撃専門じゃないからな。普段はそんなに使わん」


攻撃専門じゃないとすれば今ここで出した意味も何となく分かった為、シルクは小さく頷いてクロスの後を追った。

途中すれちがったファインダーらしき人が自分達に全く気付かず通りすぎてくので多分、マリアの能力は視覚に作用するんだろうなという事を理解する。


「…これからどこに行くの?」


何も言わないクロスの背中にはただ、黙って付いてこいとだけ書いてあった。















……それからさらに数時間ほど歩いて。

クロスが立ち止まった先は一軒の楼閣の前だった。

クロスに付いてくまま中に入ったはいいが、煌びやかなその内装に驚いて目を見開くシルク。


「な、なんだかもの凄く高そうなお店だけど…いいの?」

「構わん。払うのは馬鹿弟子だ」

「!」


その言葉に静止するシルクを他所に、主人に話をつけ次第すぐに戻るから大人しく待ってろと告げ去って行くクロス。

と、


「冷たい飲み物はいかがですか?」

「?」


声に振り向くと、整った身なりをした一人の男がシルクの背後の棚を指さし微笑んでいた。


「飲み物はサービスとなっておりますので。よろしければお連れ様の分も持って行って差しあげてはいかがですか?」


男の言葉と棚を見て。

一瞬迷ったシルクではあったが、棚の一番上、クロスの好きそうな酒を見付けて頷いた。

素直に付いて来たシルクを従え、男は棚の前まで行くと──


その隣にある扉を開き、シルクの背を強く押し出した。


「…えっ?!!」

「やァーっと見つけたぜ女ァ!!!!」

「っ!!!」


生ゴミ臭い路地のような所に出たシルクが驚いて反応出来ないでいる隙を狙い、その目を背後から覆って隠す男。

そのシルクの首筋に…

男の鋭い牙が食い込んだ。


「やあぁッ!!!!!」

「それにしても綺麗な顔してんなァ…お前」


噛まれた箇所から感染したアクマのウィルス。

ペンタルの浮き出たシルクのその白いうなじを男は舌で丁寧に舐めあげると、指で卑猥になぞった。


「“寄性型”みてぇだから、こんくらいのウィルスなんてご愛嬌だろ?」

「なら、これからお前の脳天をブチ抜く銃弾もまた、ご愛嬌だな」

「…あ?」


ドンッ!!!


その指をシルクの胸に這わせようとしていた男の体はしかし、至近距離で受けた銃弾によりバッタリと地面に倒れ込んだ。


「大人しくの意味も分からんのか?馬鹿娘ッ!!」

「……ぅ!!」


いきなり視界に飛込んできた光とクロスの顔に…

シルクは言葉を飲み込み、ポロポロと涙を零して俯いた。


「来い!!」


荒々しくシルクの腕を掴んで中に入り、上へと続く階段を上るクロスに。

どうして自分はいつもクロスを喜ばせる事が出来ないんだろう、と。溢れる涙がシルクの視界を滲ませた。


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