「追って来ないってことはどうやら── コムイのやつも連中にお前を会わせたくはないらしい」 「…連中?」 「中央の犬だ」 部屋出てそう言うクロスにシルクが首を傾げれば、クロスはシルクを降ろし、ついて来いと言って歩き出した。 「連中に捕まったら、お前もタダではすまんぞ」 「…え?ど、どうなるの?」 「どうなるかは知らんが、オレとは確実に隔離される事だろうな」 「…っ! そんなのっ!」 嫌だと続けようとして、クロスの気持ちが分からなくて黙った。 それを見て露骨に眉を顰めるクロス。 「顔に出てんだよ、馬鹿弟子が。 言っとくが、コムイのやつに何て言われたかは知らんが、オレはもともと本部に来るつもりだったんだよ」 コムイに宛てた紹介状にもそう書いたしなと呟くクロスに、びっくりしたように目を見開くシルク。 ── そういえばさっきも手紙が何とかって… 「…えっ?! で、でもクロスがここに?!」 本部が嫌いだと言い、気を失わせてまで駅のホームに放置したクロスが…?と眉根を下げるシルク。 そのシルクの眉間のシワを人差し指で弾いたクロスは、場所も構わず煙草を咥えて火を灯した。 「そう簡単に弟子に自分の居場所を特定されるほど落ちてもねェからな。 オレも別件で動いてたから連中が来るまでお前を本部で保護してもらって、連中が来る前にお前を回収する予定だったんだよ」 「じゃあ、じゃあなんでコムイさんは…」 ── あんな事を言ったんだろう? クロスが送った紹介状にその有無が書いてあったのであれば、コムイは別件が終わり次第クロスはシルクを引取りに来るという事が分かっていた筈で。 それなのにどうしてあんな事を、まるでクロスと自分を引き裂こうとするかのようなあんな事を…とシルクが混乱していると、突如としてあ── っ!!!という大声が響き渡った。 「シルク!!それに、師匠…!!」 シルクが振り返るとそこには大きな口を開けたアレンがいて。 そしてシルクの気の所為でなければ、隣のクロスからは盛大な舌打ちが聞こえたような気がした。 「ちょっと何やってるんですか師匠!!こんな時間にシルクを連れて!!それにっ、それに師匠が来たなんて門番は一言もっ…!」 「オレが普通に正面扉から入って来ると思ってんのか?あぁ?」 思わぬ人物は今会いたい人ではなかったのか、クロスは不機嫌さを隠そうともせず、シルクの腰を引いて抱き寄せた。 「…ちょっ!!師匠まさかもうシルクと…」 「そのまさかだな」 「は、犯罪ですよ師匠ッ── !!!!」 「何だ。お前もいっちょ前に狙ってたのか?…ククッ。なら残念だったな。こいつはもうオレの女だ」 ほんの数時間前に、しかも強引に組敷かれたのだとも思うが、喉を鳴らして堂々と俺の女発言をするクロスにシルクは赤面した。 「っ!! といいますか、これから一体どこに行くつもりなんですか?!師匠!!」 じりじりと詰め寄って来るアレンに、クロスは面倒くさそうに頭をかいた。 「ギャーギャーわめくな。師であるオレに恩はないのか?」 「して欲しいならまずはシルクから手を離してください!!!」 「…ったく。いつまで経っても可愛くねェ弟子だな」 ゴッ 「うっ!!」 「えっ?!えっ、ア、アレン?!」 いつの間にか取り出した銃で素早くアレンの頭を殴り、気絶させるクロス。 「シルクの方がよっぽど可愛げがある」 そう言うとクロスは、慌てるシルクの腕を引いてそこから数歩と離れてない部屋に素早く連れ込んだ。 「掴まってろ」 そして自身の首にシルクの腕を回させると── 窓から外へと飛び降りた。 地上からゆうに数メートルは離れているだろう、そこから。 |