「来い」 「え ちょ、」 目を覚ましたら意識を失う前とは違い、シルクの体にはシーツが巻き付けられていて。 それが不器用ながらもクロスの優しさなんだと気付いて笑っていたら、そのクロスによってシルクは乱れた服のまま部屋から連れ出された。 「えっ…!待っ、待ってクロスっ!!一体どこに、」 「コムイんとこだ」 そう返してスタスタと廊下を進んでいくクロスではあるが、夜が明けたといってもまだ朝の7時過ぎ。 いくらなんでも早すぎるのでは… とシルクは思ったが、クロスの事だ。言うだけ無駄なのだろう。 バンッ!!! 「…えっ、クロス元帥?!!一体いつここに……って、シルク?!!」 「コムイのヤローはどこにいる?」 「兄さんなら奥のソファーで…ってちょっ、クロス元帥!!!」 クロスが力強く開けた室長室の先。 驚いたようなリナリーの制止の声も聞かず、奥へ奥へと進んでいくクロス。 シルクも慌てて付いて行こうとして、 「わっ…!!」 「お前な…」 書類の山に足をとられ、危うくその一部と化そうとしたシルクをクロスは片手で抱き上げると、呆れたように声を洩らした。 「…ま、待って!今そこに人が、」 「ほっとけ」 崩れた書類の下に足らしきものが見えたシルクがハッとしてクロスの袖を引くが、特にクロスの目を引くに足りるものではなかったらしい。 シルクを抱えたままクロスはその先のソファーの上で読みかけの本を顔に広げ、伸びている男の前まで来ると、ようやく足を止めた。 そして一言、 「リナリーがアレンに取られたぞ」 「アレンくうううぅぅん?!!!!!」 クロスのその一言によりコムイは勢いよく飛び起きると、物凄い勢いで辺りを見回した。 「…なっ?! クロス元帥?!!」 「久しぶりだが挨拶はいらん。コイツは貰ってくから、上には上手く誤魔化しとけ」 「えっ、ちょ…! 何を言ってるか分かってるんですか元帥?!!」 「…うるせェな。手紙にもそう書いといただろうが」 「…手紙?」 それはクロスが出した紹介状とやらのことだろうか? 「シルクが伯爵の手に渡ったら一体どうなると……!」 「そうならないよう、オレはこいつを弟子にしたんだ」 ついていけない二人の話にシルクがクロスの髪を引っ張るも、簡単にあしらわれた。 「第一、ここにいることにこいつが納得してない。…そうだろシルク?」 「?!」 クロスの髪を引っ張っていた手を掴まれ、突然話を振られたシルクがびっくりする間もなく、体をコムイの方に向かされた。 それにより僅かに眉を潜めるコムイの顔と目が合う。 「少なくとも…元帥と一緒に危険な任務を遂行するよりは、ここの方が遥かに安全なはずです!!」 「そういい切れるか?」 「……どういう意味ですか…ッ」 声を荒らげるコムイの言葉に、そのまんまの意味だと返して背を向けるクロス。 「クロス元帥!!」 だが今度こそクロスはコムイの静止を振り切り、背を向けて呟いた。 「明日には中央の連中がシルクを監査しにくる。もう、時間がねェんだよ」 |