『それは神のイノセンス。全知全能の力なり。またひとつ…我らは神を手に入れた』 アレンと別れ、コムイによって連れてこられた部屋でシルクは、何やら動く台座の上に乗せられ、どこから聞こえるともしれない声に身体を震わせた。 地上からぐんぐんと離れる恐怖からシルクがぎゅっと目を瞑った瞬間、 「さぁシルク…」 「え…?」 突然名を呼ばれたかと思うと、後ろから伸ばされた“何か”によってシルクの足は台座から離れてしまった。 《イ…イノ……センス》 「!」 絡みついたその手から逃げようとして落ちた体はしかし、再度掴まれ、鋼鉄に覆われた顔のようなものへと近づけられて… 得体の知れない恐怖からシルクは反射的に左目へと手を伸ばすが、それすらも掴まれてしまい万事休す。 もうダメだ…!と思った瞬間、何やら音が聞こえた。 《…2…‥16…30..41…64 ‥72%!》 それは何かの数字を読み上げているようで、けれども何が何だか分からないシルクは遂に泣きそうになり、顔を俯けてしまった。 《両眼でそれぞれ能力が違うせいで…扱いが難しいせいだろう…武器とのシンクロ率は54%のようだ…》 徐々に声は遠のいていき、それと同時にゆっくりと体が台座に戻されていく事気付いたシルクは、安堵からポロポロと涙が溢れるのが分かった。 それに気付いたのか、頭上から降る声が今度は戸惑うように揺れる。 《おどかすつもりはなかった…わたしはただ、お前のイノセンスに触れ、知ろうとしただけで…》 「いやー、お疲れシルクちゃん!」 「…っ!」 その声に被さるようにして響いてきたコムイの声に、シルクはまだ台座が地上から離れた位置であるにも関わらず跳躍し、部屋をとび出て走り去ってしまった。 「…ほんとに泣いちゃったか」 それを見て持っていたクリップボードで肩を叩きながら、コムイはシルクの走り去っていった廊下をじっと見つめた。 そのコムイの背にかかる、シルクが涙した理由である“ヘブラスカ”の声。 《シルク…あの子のイノセンスは互いに相反する能力で、いずれ選択を迫られる日がくるだろう…それは世界を左右する‥強大な…》 「へブラスカが言うんならそうなんだろうね」 コムイはその言葉に訝しげに眉を潜めた後、ため息をついて肩を落としたのだった。 |