「うぅ…」 今だに取れないアルコールが頭に痛い。 少し多めの旅費と、必要最低限の荷物だけを残して自分が駅に放置されていたと気付いたのは、つい数分前の事だった。 「お酒弱いって、言ったのに…」 だからこそ酔わせて気を失わせたのだとは思うが… だが、何も数回に渡って飲ませることもなかったのに、と思った。 それなのに反論したい相手はもうここにはいなく、シルクは仕方なく行動を起こす事にした。 「多分だけど…あれに乗ればいいのかな…?」 シルクは戸惑いながらも徐々に近づいてきた列車に乗り込み、ひとまず適当な場所を探して座った。 すると、 「隣、座ってもいいですか?」 「?」 ふいに根元から真っ白な髪の少年に話し掛けられ、シルクは反射的に頷いてしまった。 少年は連れらしきフードを被った二人の男も前の席に座らせると、自分はシルクの隣に腰を下ろし、ニッコリと笑いかけてきて。 「どちらに向かってるんですか?」 「え?あ… く、黒の教団ってところに。て言っても正確な場所も何もそのっ、…わからないん、だけど…」 「教団ですか? それなら大丈夫ですよ、僕達も同じ場所に向かってますから」 「…えっ!?」 そう言ってニコニコと微笑む少年。 それを見て、シルクは張っていた気が弛むのを感じた。 「良かったっ…!! 向かう先が同じ人がいて」 「僕もです。お名前、聞いてもいいですか?」 シルクが少年に名前を教えると、少年もアレン・ウォーカーというエクソシストなのだということを教えてくれた。 「シルクは黒の教団初めてなんですか?」 誰の紹介で教団に?と続けるアレンに正直にクロスと答え、ついでに自分はその弟子なのだと伝えたら── アレンのその笑みが一瞬にして凍りついたのが分かった。 「シルク……?今、なんて?」 「えっ? …クロス?」 信じられないというように見てくるアレンに、何かまずい事を言ったのかと反芻していたら、いきなりがしっと肩を掴まれた。 「師匠に何もされませんでしたか?! といってもシルクくらい綺麗な人だったら言うまでもないんでしょうがっ…!!」 「えっ?……えっ?!!」 「いいんです。とぼけないでください。さよなら僕の初恋…」 今何かとてつもなく人生を左右する発言があったような…とも思ったが、とりあえずシルクはぶんぶんと強く首を振った。 「ク、クロスとは何もないよ!!」 「…へ? …本当に?」 「う、うん」 口付けされたり一緒のベッドで寝る事を強制されたりといった事はあったが… アレンにそんな事が言えるはずも無いため、シルクはコクコクと頷いた。 「そう…ですよね!! いくら師匠でも、抱く相手と弟子の区別くらいつきますよね!」 ── う、うん抱かれたことはない…! 「ついで言うと僕もクロス元帥のとこの弟子なんですよ」 「!!」 だから同じですね!と笑うアレンを見て、そういえば前にクロスがシルクの他にも弟子がいると言っていたことを思い出した。 それが偶然にも── 今日という日に対面する事になるだなんて。 「同じ師匠の出で、しかもたまたま教団に向かう列車の、しかも隣の席だなんてすごい偶然ですよねっ!!」 おそらく同じ事を考えていたのだろうアレンのその言葉に、シルクは確かにと微笑んだ。 「ウォーカー殿。そろそろ…」 アレンと一緒に来た男が前の席からそう声をかけてきた事で、シルクも下車の準備をしようと荷物に手をかけ── たところで、ふいに横から伸ばされた手がその荷物を攫った。 「向かう先も一緒ですから。僕が持ちますよ」 しっかりとシルクの荷物を持ち、行きましょうと声がけてくれるアレンを断れるはずもなく、シルクはありがとうと返して甘える事にしたのだった。 |