D.Gray−man1

□強くなれるなら
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「い…っ!」


意識を取り戻したシルクは目を開こうとして──

訪れた鈍い痛みに呻き声をあげた。


「大人しくしてろ。まだ開ける状態じゃねぇよ」


唯一動かせる右目で声の主を探してみれば、仮面で顔の半分を隠した赤髪の男の姿を捉えた。

ぼんやりとした記憶ではあるが、なんとかシルクはその男が意識を失う前に見た相手だという事を思い出し、口を開く。


「ここは…?」

「空き家」


空き家にしてはこの部屋は綺麗すぎる気もするが…男がそう言うんならそうなんだろう。

けれどもシルクが今一番気になっている点はそこではない。


「なん…で、」

「あ?美人が怪我して拉致られろうになってたら、そりゃあな」


シルクが続きを紡ぐよりも早くその意味を理解した男が答え、口から紫煙を吐いた。

男の返答にシルクは首を傾げながらも、ぷかりぷかりと煙草をふかす彼から視線を離し、自身の体へと視線を移した。

巻かれた左目の包帯以外にも、治療の痕が窺える箇所は多くて。


「ありがとう…ございました」


シルクはお礼を言って無理矢理立ち上がった後、男の横を通って出て行こうとして、


「…まだ何か?」


掴まれた腕に困惑した。


「寝てろ」

「?! やっ!…待っ…!」

「痛むんだろうが」



意志に反してベッドに逆戻りさせられる体。

慌てて起き上がろうとして、けれども上に覆い被さってきた男にびっくりしてその胸板を押すも…効果はゼロ。


「も、もう動けますからっ!」


早く、早くここから離れないと気配を嗅ぎ付けたアクマに男もろとも奇襲されてしまう!!

だから、


「お願いしますっ…!!」

「無理矢理にでも動けねぇ体にしてやろうか?」

「んっ…!!」


顎を掴まれ、品定めするように見られたから思わず包帯の巻かれてない片目も瞑ったら、唇を舐められた。


「………つっ!!」

「初めてか?」


男のその言葉に真っ赤になって俯くシルク。

それをいいことに、男はさらに顔を近付けてきた。


「やっ…」

「だったら大人しくしてることだな」

「でもアクマが…!!」

「黙れ。犯すぞ」


あまりにも理不尽な男のその言葉を受け、シルクは仕方なく逃走を諦めて下から男を見上げた。


「あの、」

「クロスだ」

「…クロスは……あそこで何してたの?」


今更ではあるが、自分が今ここにいるということはクロスはノアよりも強いということで。

けれども彼が何故危険を冒してまで自分を助けてくれたかの意図が分からなかった。


「知りたいか?」

「えっ?、あ…うん」


再び取り出した煙草にと火を付けるクロスと目が合い、意外にも整ったクロスのその顔に驚くシルク。


「居場所を変えて逃げ回ってるエクソシストの回収」

「逃げ…えっ?」


聞いてなかった。


「移動手段に何使ってるか知らんが速すぎだ、バカ」

「……………」


どうやらそのエクソシストとは自分のことらしい。

ていうか今、回収って──


「回収して…どうするの?」


返答によってはクロスと一戦しなければならない事を覚悟し、シルクは低く構えた。

が、


「オレの弟子になることだな」

「!」


男の台詞は余りにも意外なもので、そして戸惑うもので。


「教団に連れて帰って修業させるのもいいが…」

「ゃっ…!」


シルクが何と答えていいものかと迷っていると、ふいに伸ばされたクロスの手がシルクの首筋をするっと撫でた。

……く、くすぐったい!


「それにしては惜しい」

「?」

「オレの弟子になるか?」



そのまま顎に移動したクロスの手により、上を向かされて。

…この男の弟子になる事がどんな意味を持つかなんて知らない。

ただ、少なくとも自分を助けてくれたワケだから敵ではない事は確かで。
そしてノアよりも力があるのだろう事も確かで。

ならば、


「…強くなれるなら」

「約束してやる」


口端を釣り上げて笑う男の赤。

その赤に委ねるようにシルクはゆっくりと瞳を閉じた。


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