「もう、嫌だっ」 「だったら抵抗しないで伯爵さまのモノになっちゃえよ」 「触らないでっ!!」 もう何度目かも分からないアクマとの接触。 逃げても逃げても必ずそれは現れて。 「あ〜もう俺たちだけじゃ見つけられてもらちあかねェよ。誰かノア様呼んでこい」 生まれた時から瞳に宿る力。 命を狙われる程のそれはしかし、使い方のせいか使用する際の疲労が激しく、防御に回す力だけで精一杯だった。 「後はノア様が来るまで逃がさないようにすりゃいいだけだな」 「あなた達の思い通りになんかっ…させないっ!!」 力の限り開いた左目から引きずり出した凶器。 驚いたアクマの一人に斬りつけ、その体を絶命させた。 「くっ…!!」 「なんだぁ?一撃で終わりかぁ?」 近付いてきた残りのアクマもギリギリのところで右目の力である防御線(バリア)で防いで。 「めんどくせぇ能力しやがって女アアァ!!」 一斉に飛びかかろうと構えたアクマを見て、反射的に目を瞑った。 …けれどいくら経ってもなかなか訪れない衝撃に恐る恐る目を開いて。そして── 「あ……っ……っあ」 アクマの代わりにシルクが目にしたのは、シルクハットを被った男の姿だった。 そして男の額に浮き出た十字を見て── それがノアの一族のものである事を理解して。 「っ!!」 防御線を張ったまま素早く反転した。 何故ならアクマとは桁の違うノア相手での勝機は── 「逃がすかよ」 「っ!!」 けれども右目で張った防御線もあっけなくを破られ、シルクは男が伸ばしてきた手により首を掴まれたかと思うと、次の瞬間強く木に叩きつけられていた。 「いっ……っぅ…」 「へぇ。双子にやられたダメージが効いてるみたいだな。」 「双……子?」 「一昨日お前を捕まえ損ねたノアがいただろ?」 「っあああっ」 疑問形で問い掛けておいて。 けれども端(はな)からシルクの返答など聞くつもりはないというように、男はシルクの意識が飛ぶほど強くその首を握った。 「だから俺の出番ってわけ。何、まだやんの?」 苦しくて、痛くて。 咄嗟に右手に持ったままの凶器を振り上げようとするシルクを見て、男は至極楽しそうに笑った。 「そういやお前さ、片目から武器出すんだっけ?」 「なにっ、を…っやあああああああああああああ!!!!」 男の手が── 嫌がるシルクの左目を抉る。 「…って、何も出ねぇじゃねぇかよ。やっぱ武器って一つしか出せないわけ?」 「っあああ゛あ゛ああああ、ぐっ…」 挿れた時と同じようにして、乱暴に引き抜かれる男の拳。ポタポタと滴る鮮血が地面に赤い血溜まりを作った。 それを見て今更ながらに慌てふためく男。 「やっべ!壊したら千年公に怒られんじゃねーか。」 やべーやべーと連呼しながら男は、もはや完全に抵抗する気力を失ったシルクの体を抱え、歩き出そうとして、 「やーっと見つけたぜ子猫ちゃん。…ついでにヤローも一緒かよ」 男に抱えられ、視点の定まらないシルクの片目ではあったがかろうじて銃と、鎖の巻き付いた柩を携える赤髪の男の姿を捉えた。 …けれども左目がもたらすあまりの激痛によりシルクはそれ以上意識を保っている事が出来ず、力尽きた。 |