兄妹シリーズ

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谷家の妹





「零お兄ちゃん!!」

「?! なまえ!」


安室こと降谷 零は、聞きなれたその声にいち早く反応すると部下である風見との会話を打ち切り、サッと背後を振り返った。

瞬間、


ガバッ


「…っと」


勢いよく抱き着いてきた自身の妹ーーなまえを予想通りとばかりに受け止めると、やれやれといったように肩を竦め、その愛しい妹の体を抱き締め返してやった。


「…全く。同じ家に住んでるわけなんだから、帰ったら毎日会えてるだろ?」

「待てなかった」

「待てなかったって…」

「後は我々でやっておきますので、降谷さんはもう帰って頂いて大丈夫ですよ」


その二人を見て声をかけたのは風見で、彼は降谷にそう返した後、なまえに向けて久しぶりですねと片手を上げた。


「…いいのか?」

「ええ、大丈夫です。降谷さんが詳細に調べてくれてましたから、後は報告書にまとめるだけですので」


なので妹さんのとの時間を優先させて下さいと続ける風見に降谷は礼を返すと、今だに抱き着いたままのなまえを連れ、車の停めてある駐車場へと向けて歩を進めた。


「…迷惑だった?」

「いや。とりあえず今抱えてる問題は一段落したから、宣言通り今日からは少し早く帰れそうだ」


ここの所帰りの遅い兄により、なかなかに寂しい思いを強いられてきたなまえ。

それが今朝出かける前に、上手く行けば今日からは18時前には終わって帰れそうだなんて事を告げられたもんだから、きっとその嬉しさを隠せなかったのだろう。


「まだ夕飯には早いし、久しぶりに買い物でも行くか?」

「え?! うん!行きたい!!」


愛車であるRX-7の助手席を開け、乗り込んだなまえの顔を見てそう問いかけてやれば、なまえはパアッと顔を輝かせて嬉しそうに頷いた。


「食器とかね、新しく可愛いのが欲しいなって思ってたの!」

「それなら夕飯も兼ねて、東都デパートか」


あそこなら最上階にレストランも入ってたしなと考えて零が車を走らせれば、隣にいるなまえがやったー!と声を上げて喜ぶ姿が目に入った。

それを見てふと頭を掠めた一つの疑問を問いかけるべく、口を開いて。


「そういえばなまえは…彼氏とか作らないのか?」

「え? なんで?」


兄妹として共に暮らしてはいるが、なまえだって中々に年頃の女の子だ。

ならそういった存在がいたとしても、何らおかしい事なんてないだろう?とばかりに零がなまえの方を見遣れば、


「んー。そのうち?でも今はお兄ちゃんがいれば彼氏なんていらないよ。零お兄ちゃんより魅力的な人なんていないし」


なまえのその言葉を聞いた零は思わず、目を大きく見開いて言葉を失ってしまった。

そんな兄に気付いた様子もなく、逆にお兄ちゃんは?と問い掛けてくるなまえ。


「お兄ちゃんはいるの?好きな人」

「いや」


俺も特にはいないなと返す零だったが…まさか。なまえも同じ理由で交際相手を作っていないとはと苦笑し、ハンドルから離した片手でもってなまえの頭を撫でた。

暫く気持ちよさそうにそれを受けていたなまえだったのだが、ふいにその零の手を掴み、自身の両手で包み込みながらフッと笑う。


「…零兄ちゃん以上に一緒にいたいと思える男の人なんていないし、お揃いのコップとか、生活用品を一緒に買いたいと思える異性なんて全然いなくてさ。むしろ困っちゃうよ」

「それは確かに…困ったな」


けれどもそれに対し全く困ったという顔でなく笑いながら零は、仲良すぎる兄妹ってものは、一体いつになったら離れる事が出来るんだろうなと思った。

そもそも普通の兄妹は自分たちのように仲良くもないし、ここまで距離を近く持とうともしないから、年頃になっても一緒に住んでいるだなんて事もまずないのだろう。

…おまけに生活用品だってお揃いのものが多かったり、一応部屋は分けているものの、同じベットで寝る事も少なくはないような仲良しっぷりで。


「でも好きな人とか、彼女が出来たらちゃんと言ってね?お兄ちゃん」

「なまえもな」


それ故自分たち二人はこうして時々お互いの幸せを思い合い、切なくなる時があった。


だが、それまでは。


「その時までは一緒にいようね!!」

「あぁ」


その言葉と同時、ぎゅっと零の片手を握る力を強めたなまえに応え、その手を握り返してやりながら。

俺だって当分なまえという可愛い可愛い妹を手放せそうにない、と。

同じ想いを抱え合う降谷兄妹は顔を見合わせ、笑いあったのだった。


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