小話
□ずっとキミを。
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ある日突然、私の日常は終わりを告げた。
住み慣れた土地、居心地のいい我が家を捨てて、危険と隣り合わせの生活も、もう何日目だろうか。
それでも私がなんとか生き延びているのは、異変が起こってすぐに家まで様子を見に来てくれた幼馴染みのおかげだ。
昔はよく兄妹のように遊んだりもしたけれど、彼の家庭環境や兄の問題もあり、気が付けば疎遠になっていた。
大人になってからも、たまに姿を見かける事はあっても今更互いの年の差に気付いて何を話したらいいのかもわからず、言葉なんて交わさなかった。
だから、異変が起こってすぐ彼が血相変えて家に現れた時は、本当に驚いたものだ。
それと同時に、何年も話していなかった私を心配してくれたのが嬉しかったのも覚えている。
「どうしよう……もう夕方……」
私は木の幹に寄り掛かりながら、オレンジ色に染まり始めた空を見て呟いた。
また、夜が来る。
電気を失ってからというもの、夜は特に恐怖を感じた。
見通しの悪い暗闇から何かがコチラを狙っているような気がして……。
一度そう感じてしまうと、自分がちっぽけな草食動物になってしまったような気さえする。
「暗い
の嫌だな……」
精神的疲労も手伝って、私の口からはついに弱音が漏れた。
私が不安から両膝を抱えたのを見て、目の前で同じように腰掛けた幼馴染みが口を開く。
「火をたけば明るくなる」
私の気持ちを知ってか知らずか、何てことないように返されて少しムッとする。
「お腹は空くし……」
「リスでも捕まえて食わせてやるさ」
「いつ化け物が襲ってくるかわからないじゃん!!」
「俺と兄貴が強くて良かったな」
「何でそんなに冷静なのよ!!」
私が止めど無く吐き出す愚痴に淡々と答えながら……ダリルは焚き火の用意をし始めた。
溜まりに溜まったストレスから私が声を荒らげると、彼は真っ直ぐに私を見つめる。
「俺が落ち着いてなかったら、おまえがもっと不安になるだろ」
「え……?」
私を安心させる為──……?
予想していなかった返答に、驚きを隠せない。
「な、何で……」
「……?」
「だって、私達……こうやって話すのとか、もう何年も無かったし……」
「そうだな。でも、」
少し苦笑して、ダリルは一度私から視線を逸らす。
そうして足元に集めた枝に火を灯すと、辺りが少し明るく
なった。
次にダリルが顔を上げた時、私はこの場にそぐわない感情を抱いた自分に戸惑う。
「俺はずっとおまえを見てた」
「…………っ」
きっと、今こんなにもドキドキしているのは、ダリルがいつもと違うから。
私の知ってるダリルと、違うから──……。
「何でだろうな?」
ダリルが熱を帯びた目で私を見つめている。
もしかして、ずっと、そんな風に私を見ていたの?
問い掛ける勇気も無いまま、私はぎゅっと自分の身体を抱きしめていた。
そうしていないと、目の前の幼馴染みに、この胸の高鳴りごと全て暴かれてしまいそうで怖かった。
END.