小話
□ブルームーン。
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今夜はやけに足下が明るい。
そう感じで夜空を見上げると、そこには白光を放つ丸い月があった。
「ブルームーン……」
「あ?……なんだって??」
私の呟きに反応したのはダリル。
一緒に見張りをしているのだが、月明かりのおかげで今日は見通しが良い。
ダリルの顔もよく見える。
彼は枝をナイフで削る手を止めて(おそらく矢にするのだろう)、私の言葉に首を傾げた。
「ブルームーン。一ヶ月に二回、満月になること。今月の初めも満月だったんだよ」
「よく覚えてたなそんなの」
「さすがに記憶は無理だよ。こうやって、毎晩日付をメモしてるの」
私はポケットから小さなノートを取り出して、ダリルに渡す。
こんな生活になってからすぐ、グレンに頼んで探してきてもらったものだ。
世界がこうなった今、娯楽はかなり限られる。
自分は天体マニアとまでは言わないが……ある程度、星に関する知識を持っていて良かったと思う。
そのおかげで、曇ったり雨が降ったりしない限りは毎晩楽しみを見つけられた。
「月が好きだとは知らなかった」
「ダリルこそ、こういうの詳しそうなのにね」
「空はあまり見ない」
空には食える物が無いからな、と続いて私は思わず吹き出した。
確かに、リスは空を飛んでいない。
「ブルームーンにはね、『見たら幸せになれる』って言い伝えもあるんだよ」
「心配するな……月になんざ頼らなくても、おまえの事はちゃんと幸せにしてやる」
「ふふっ、知ってる。だって、私はこうしてダリルの隣に居るだけで、十分幸せだもの」
「欲の無ぇやつ……」
この言葉に満足だったのか、ダリルはくしゃくしゃと私の頭を撫でる。
髪が乱れるけれど、ダリルがこういう事をするのは私だけ。それを知っているからか、毎回必ず、この手が離れていく時は名残惜しく感じてしまう。
「ねぇ、知ってる?」
「………?」
「ダリルが私に告白してくれたあの日も、ブルームーンだったんだよ」
「マジかよ」
それはとても珍しい現象──……。
今年最初のブルームーンの日、私はこの上なく幸せな気持ちを知った。
偶然の一致に、月明かりの下で二人で笑う。
お月様からのプレゼントだ、なんて思う程ロマンチストではないけれど……それでも、最高のシチュエーションだ。
「好きだよ、ダリル」
「そういうのは先に俺に言わせろ」
どちらからともなく手を取り合い、愛おしさに背中を押されて唇を重ねる。
ひんやりとした空気の中、互いの唇から伝わる熱が、私達を包み込んでいた──……。
END.
(2018年、今年はブルームーンが二回ありました)