小話

□A、B、C……
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「懐かしいなぁ〜……」



私が机の上に広げたのは、アルファベットクッキー。

子供の頃によく食べていたそれを、たまたま物資調達で発見した時にはテンションが上がった。
少し湿気てはいるが、味に問題は無い。


「D……A…………」



数ある文字の中から目的のものを探す。
そうして単語を作りながら食べるのは、たぶん自分だけじゃなく……誰もが通った道だと思う。



「出来たっ!」



私はアルファベットを一つの単語になるように並べて、それを隣に座り煙草をふかすダリルの前に差し出した。


「どうぞ」

「…………おう」



机の上には『D A R Y L』の文字。



ダリルは『D』のクッキーを摘むと、ポイッと口に放り込んだ。
指先についた粉を舌で舐めとるのがなんだか子供みたいで、ちょっと可愛い。

思わず笑うと、『なんだよ』と睨まれた。




「もう一つダリルが好きなもの作ってあげるね」



言いながら、私はまた文字の山から目当てのものを見つけて、ダリルの前に並べた。


私の、名前を。



「おまえなぁ……」



ダリルがククッと笑う。



「食べてくれないの?」

「だったらいっそ『EAT ME』にしろよ」

「やだ…………ダリルってば、絶対えっちな事するでしょ」

「バレたか」




冗談を言い合いながら、二人して笑った。
私はこんな風にダリルと笑い合えるのが嬉しくて、何気無い会話に幸せを感じる。

毎日が今この瞬間ように、穏やかであればいいのに……。



そんな事を考えていると、いつの間にか煙草の火を消したらしいダリルが、両手でいそいそとアルファベットを拾う。

ジッと見つめていると、出来上がった単語をダリルが私の方へ差し出した。


「食えよ」


目の前に置かれた『L O V E』の文字に、心臓が高鳴る。

嬉しくて、気恥ずかしくて、今の私はきっととてつもなく締まりのない顔をしているだろう。


なかなか手を伸ばさない私に痺れを切らしたのか、ダリルが『L』を摘んで私の口へ運んでくれた。


口の中でバターの風味が広がって、優しい甘さに満たされる。


「美味いか?」


うん」





だけど、この甘さはバターの味だけじゃないんじゃないかと……ダリルが微笑むのを見て思った。



END

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