小話

□どこへ行っても。
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「……大人になったな」




私を膝の上に乗せていたダリルが、不意に呟いた。



「どうしたの、急に」

「いや…………」


ダリルは何を思っているのか。

私の頬を撫でながら、まじまじと見つめてくる瞳は、私越しにどこか遠くを見ているような気がする。
どこか別の場所に思いを馳せるような表情に、なんだか私まで切なくなってきた。




「確かにダリルよりは年下だけど……はじめてあった時からとっくに成人してたでしょ」

「そうじゃない。なんて言ったらいいんだ……」



適当な言葉が見つからないのか、唸りながら首を傾げるダリル。
その様子がなんだかおかしくて吹き出しそうになっていると、急にひらめいたような顔で私を見るものだから、それがまたおかしい。


「顔つきが変わった」

「え?」



そうだそれだなんて本人は納得しているけれど、私にはさっぱりだ。



「アトランタ、CDC、農場に刑務所……いろんな事があったな」

「そうだね」

「場所が変わる度に色々あった。その度におまえの顔つきが変わるんだ」

最初は泣いたり叫んだりもした。
それがいつしか目の前の現実を受け止められるようになって、今は立ち向かえるまでになった。





「……つまり、私は老け込んだってこと?」

「ちげぇよ。綺麗になった、って言いたかったんだ」

「な……!?」



ダリルの口から出たとは思えない言葉に、目が飛び出そうになる。
と、同時に誤魔化しようがないくらいに顔が熱くなり始め…………きっと私は今、耳まで赤くなっている事だろう。


ドキドキしながらダリルを見上げると、とても穏やかな笑みを浮かべていて、そんな風に優しく見つめられている事にとてつもなく幸せを感じる。
そうしてダリルを見つめ返していると、まだ髪が短かった時の、出会った頃の彼と姿が重なった。



「……私達、随分遠くまで来たんだね」



それが単に距離的なものを指した言葉では無いことを、ダリルもきっとわかってる。

あの頃の私達とは違う、今の私達。

あの時があるから、今をこんなにも愛しく感じるのだろう。

手探りの毎日の中で、必死に掴み取ったこの日々が、たまらなく愛おしい。

「ダリルも大人になったよ」

「素直にいい男だって言えよ」

「短い髪も長い髪も大好き」



これからも、
私達はずっと一緒。



END

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