小話

□いっその事今すぐに!
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「え、何してるのダリル……」



ある日の昼下がり。
特にやる事も無い私がふらっとダリルの元を訪れると、珍しい事をしている場面に出くわした。


「あ?見りゃわかんだろ」


部屋にはパチンッパチンッと乾いた音が響いている。
ベッドに腰掛けたダリルは、その体躯に似合わない細かい動きで爪を切っていた。

……しっかり爪ヤスリまでかけて。


このアレクサンドリアに来た直後は、警戒心からシャワーさえまともに浴びようとはしなかったのに、だ。


ワイルドな見た目に反して、手を目の前に翳し、切った爪の仕上がり具合を入念にチェックなんてしているから、私は思わず吹き出してしまった。


「何がおかしいんだよ」

「ふふっ、だって……」


不機嫌そうに振り向くダリルがまたおかしくて、私は口元を手で覆う。



「髪も髭もそのまんまなのに、爪だけすっごい拘ってるから……ギャップがおかしくて」

「テメェ…………」


堪えようとしてはいるのだが、肩が震えるのを止められない。
クスクスと笑い続ける私にチッと舌打ちすると、ダリルは少し乱暴にサイドテー
ブルの引き出しを開けて、爪切りを放り込んだ。


「髪や髭はおまえを傷付けないだろ……」

「えっ」


ボソッと呟いたダリルの言葉に、頭の中が『?』でいっぱいになる。



爪だと傷付くモノ…………?




「…………っ!?」



しばらく考えてやっと意味がわかった私は、ボッと音がしそうなくらい急激に顔が熱くなった。


爪で……というのは、つまり、そういう事なのだろう。



リアルにベッドの中での事を思い出してしまったのと、思いがけない優しさにきゅんとくる。


「でも、痛かったこと……無いよ?」

「何言ってやがる。こまめに手入れしてたに決まってんだろ」





爪切り程キレイには仕上がらねーけどな。





バツが悪そうに、最後は聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言うダリルに、私はなんだかもう色々と込み上げてくるものがあった。



この人は何て愛情深く、可愛らしくもある行動が取れるのだろう。



「ダリル、抱いて!」

「……真っ昼間からいいのかよ」




とか言
いつつ、手はしっかりと太腿の辺りをまさぐってくるから素直だ。



END

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