長編

□06.始まりの日。
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高校3年生のある日。
父が家に知らない女性を連れてきた。
金色の髪に、青い瞳の……イメージしやすい『外国人』そのものの容姿をしたその人は、父の後ろで恥じらうように縮こまり、頬は淡く染まっていた。


この時点で、少し、嫌な予感はしたのだ。










「名無しさん、父さんな……再婚しようと思うんだ」













幼い時に私は事故で母を亡くし、それからは父と二人きりで生きてきた。
最初は寂しさに毎晩泣いて、父を困らせたりもしたけれど、次第に私は仕事に家事に……と、日々奔走する父を支えたいという気持ちが強くなり、泣く事も次第に減って……父と仲良く助け合う日々を送っていた。


私は父の事を、いつしか辛い時期を共に乗り越えてきた戦友のようにも感じていたのだ。



そこに突如現れた女性…………。




驚いたのもそうだが、それと同時に私はとてつもない孤独感に襲われたのを未だに覚えている。

私は子供なりに、自分は父の支えになっているという自信があったからだ。
だけど、父の拠り所は外の世界にあっ
たらしい。


いつの間にか母の出来事を乗り越え、私が知らない女性との未来を考えていたのだ。


でも………





「そう……なんだ、うん………いいんじゃないかな」






私だって、父の幸せを望まないわけじゃない。



まだ理解の追い付かない頭でなんとかそう答えると、目の前で二人は手を取り合い喜んだ。




「アリガトウ……」





片言の日本語で私に微笑む女性…………クレアは、こうして私の新しい母になった。




















父に通訳をしてもらいながら話す内、彼女はとても優しさに溢れた人なのだとわかった。
だけど、父の口から私の卒業と同時に彼女の故郷…………アメリカへ移り住むと聞かされた時から、私の中で少しずつ何かがズレていくような感覚を覚えた。




卒業前、特に何をしたいだとか、何になりたいだとか……進路を決めていた訳では無いが、急にアメリカ行きが決まって戸惑わないわけが無い。
『進学するのか?』、『就職するのか?』といった友人間での話題
に入れないのはそれなりに辛かった。


おまけに、私は英語は特別苦手で……話す事はおろか、読み書きさえ危うい。
更に言ってしまえば、授業の内容について行くのがやっとというレベル。

そんな私がまさかのアメリカ。
向こうへ行っても、すぐに進学や就職といった行動が取れるとは到底思えなかった。


この時期、私は英語を徹底的に勉強した。
いや、しているつもりだった。


実際は勉強している内容の半分も頭に入っていなかったし、父達の新しい生活を応援する為にも、日本語が得意ではないクレアと会話する為にも頑張ろうとは思うのだが、次第に英語と向き合うのが精神的に辛くなってしまった。

昔の自分を庇うなら、無理も無い……と言ってやりたくもなる。
だって、元から勉強は苦手……というか、ハッキリ言ってしまえば嫌いなのだから。


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