長編

□05.失ったもの。
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重苦しいシェルターの向こう側。
溢れ出す眩い光は、まるで楽園への入口のようにも思えた。

もう大丈夫。

助かる。




「ダリル、名無しさん、後ろを頼む」



シェーンの言葉でハッと我に返った私は、銃を構え直し、ダリルと背後を確認しつつリック達の後に続いてCDC内部へと足を踏み入れた。



「誰か!……どこだ!?」



広々とした玄関ホールに、リックの声が響き渡る。
閉じていた入口が開いたのだから、操作したはずの人間が居るはずなのだが…………最低限の照明で照らされたホールを見渡す限り、人っ子一人居ないという状況。
入口が再び閉じて、一部のシステムがシャットダウンされたのか先程までの光はもう無く、みんなの顔に不安の色が浮かび始める。


「誰か──……!」



再度呼び掛けた時だった。


ガチャリ、と銃を構える音が薄暗いホールの向こうから響いてきたのは。
いち早く反応したグレンに倣い、同じく音のした方へ視線を向けると……そこには一人の男性の姿。


「感染してないか?」


そう訊ねる彼の表情は緊張しきって
いて、みんなに変わってその問に答えるリックも、慎重になるのが雰囲気で伝わってくる。


もし、この人との話が拗れてしまったら…………間違いなく追い出されるだろう。
カールやソフィアの事を思うと、それだけはなんとしてでも避けたい。

これ以上、子供達を可哀想な目に遭わせるわけにはいかない──……。


リック達の会話を見守る私達にも、緊張の瞬間。









「入場料代わりに血液検査を」


それが男からの条件だった。

リックと男の会話はそれ程長いものじゃなかったけれど、この人物は私達を『害』とは思わなかったようで、ここに居ることを許された仲間達はホッと胸を撫で下ろす。


ただし、それは私以外のみんなだ。



「血液検査って、つまり…………」

「注射は苦手か?」


私の呟きを拾ったダリルがニヤリと笑う。
いじめっ子そのものの表情で。


「注射針に慣れてるよりマシでしょ」

「おい、誤解すんなよ。俺はそんなもんに手を出した事はねぇよ」


……知っている。
ダリルは一度だって、兄のように薬や酒に溺れた姿を
見せた事が無い。
ただ、言い返す材料が無くて言ってみただけだ。



「中に入れ。そのドアは一度閉まったら二度と開かない」



男の言葉に、みんなは慌ててドアの中へ駆け込んだ。
全員が入ったのを確認すると、Tドッグとデールがドアを閉め、男がカードキーを使って施錠した。


「バイ、正面玄関を封鎖し電源を落とせ」


男が指示を出すと、その言葉を受け取ったらしい誰かが操作したのか、ドアを守るように外側からシャッターが降りてくる。

これだけ頑丈に守られているなら、この中で銃は必要ないだろう。
私は手にしていたハンドガンを腰のホルスターへと戻した。

掌を見ると、手汗が滲んでいる。
緊張しっぱなしだったから、当然といえば当然か。












男は、ジェンナーといった。
建物の地下へと向かうエレベーターの中で、カールに冗談を言ってみせたりする辺り、人当たりは悪く無さそうだ。


ただ、私には博士が常に浮かべている硬い表情が……気になって仕方が無かった。


エレベーターを降りて廊下を歩く間も、違和感は拭えなかった。

CDCという場所がどういう所なのか……詳しいわけではないけれど、もっと人がたくさん居るんだと思っていた私は、ここに来てからジェンナー博士以外の人間を見ない事に疑問を感じていた。
先程博士が『バイ』という名前を口にしていたから、その人は確実に居るのだろうが…………なんていうか、病気やウィルスの研究をしている施設なら、白衣を着てるようなそれっぽい人間が、もっと所狭しと動き回っているものじゃないんだろうか。

病院のように、白い空間が続く中を私達だけで移動している今の状況は、なんだか不気味だ。



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